航空レーザースキャンで発見の6万点のマヤ遺跡、解析すすむ

南米の歴史は深い。紀元前2000年頃にはコパンやオルメカといった先古典前期の文明が成立していたと見られ、1492年コロンブスのアメリカ大陸到達以後スペインに征服されるまで、高度で特徴的な文明を発展させていた。スペインによる支配期間に行われた焚書やマヤ文字禁止令の為にほとんどの記録が失われてしまったことで、多くの謎に包まれたままになってしまったマヤ文明研究に、大きな転機が訪れている。2018年2月に発表された6万点以上のマヤ遺跡の発見は、実にセンセーショナルだった。航空機からのレーザースキャン技術で密林の下から姿を現した大量の古代の遺物の群れは正に世紀の大発見と言っても過言ではなく、世界的な注目を集めた。

2月に発表されたのは試験的な画像とデータだけだったが、その後本格的な解析が行われた。言ってみればここからが現代の考古学の本領発揮だ。研究者と自治体が協力し、スキャンされたのはグアテマラ・ペテン県のマヤ生物保護区の2,144㎢の広大なエリアだ。その広さ何と国土の1/5にも及ぶ。この広範囲では今流行のドローンでカバーすることは不可能だ。航空機を使って長さ30km、幅20kmのエリアを何度も往復してスキャンした。

航空機には多波長、多チャンネル、多スペクトル、狭パルス幅ライダーシステムが搭載された。サイズ的には冷蔵庫程もあるというその高性能システムが、密林が隠してしまっていた遺跡を顕にしてくれたのだ。近年、この航空レーザースキャン技術による遺跡の発見は、このマヤを始め各地で相次いでいる。が、「スキャンしました」→「遺跡が見つかりました」という風にスキャンしたら自動的に古代の遺物が見つかるわけではない。例えば、ライダーが写しだした構造物が果たして人工物なのか天然の地形なのか、それを即座に判別してくれるコンピューターシステムは現段階では存在していないのだ。それを判別するのが考古学者の本領だ。

考古学者たちは重複して撮影された画像やデータを重ね合わせ、貼り合わせ、補正して一枚の精密なデジタル画像を作り上げる。それは、周囲の状況や、考古学者の知識・経験を総動員して行われる作業だ。発見された6万点の遺跡群もこうして確認された。勿論、現地を訪れ直接確認することも怠らない。そして、全データを数量化し、長さと面積を測定して纏め、解析する。構造物の密度、都市の規模、耕作面積を割りだし、農作物の収穫量も推測する。こうした考古学者たちの地道な作業によって、密林下の正体のわからない地面の凹凸は、マヤ文明の遺跡群として姿を現したのだ。

このライダーによる航空レーザースキャンのもたらした影響は凄まじく、人が15年かけても47㎢しかマッピングできなかったエリアを、2週間ほどで308㎢を遥かに高精度にマッピングすることが可能だ。このライダー技術と考古学者たちの調査研究によって、小さな都市国家群と見られていたマヤ文明は、都市部の周囲に今で言う郊外のような地域があり、古典期後期(紀元前800~紀元前650年頃)には、1,100万人余りの人が生活していたと推測されている。周辺には湿地を開拓した農地もあり、この大規模都市の食料を賄っていたと見られている。尤も、発見された構造物の全てが同時代の物であるとは限らないこともあり、現地調査を含む今後の研究結果が大いに待たれるところだ。どちらにせよ、これまでのマヤ文明関連の記述が大量のページが書き加えられることは間違いないだろう。

カンボジアのアンコール遺跡やホンジュラスの猿神の遺跡といい、今回のマヤ遺跡といい、これまで発見が困難だった木々の下の遺物の発見がライダー技術の進歩により相次いでいる。こうなると次に実現して欲しいのは、砂や土や石の下に埋もれてしまった遺跡をスキャンで簡単に見つけられる技術だ。弊社所属の専門家K氏に「地中/砂中のレーザースキャン技術実現の可能性は?」と質問をぶつけてみたところ、『レーザーの特性上無理なんじゃないか』との残念な回答となってしまった。しかし、心底落胆するには及ばないとのこと。既にエジプト・クフ王のピラミッド調査等で活用されているミュー粒子を利用した方法ならば、地中/砂中のスキャンもが術源できる可能性はあるとのこと。SF的な壁越しに何でもスキャンできるハンディタイプのスキャナー、という便利アイテムがいつの日か完成するかもしれないし、完成しないかもしれない。もし完成したら、イタリアやギリシアの地下、エジプトの砂漠の下・ピラミッドの中、日本の古墳の中、その他多くの謎に包まれた歴史が明らかになる、かもしれない。世の遺跡好き古墳好きには、心待ちにしていたいところだ。

参考
*tech crunch
https://jp.techcrunch.com/search/%E3%83%9E%E3%83%A4%E6%96%87%E6%98%8E#stq=%E3%83%9E%E3%83%A4%E6%96%87%E6%98%8E&stp=1

https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/09/map.jpg?w=400&h=518 (図1)
https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/09/dostorres_before_after.jpg?w=1024&h=476 (図2)
https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/09/pyramid_lidar.jpg?w=80&h=60&crop=1 (図3)
https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/09/pyramid_uncovered.jpg?w=80&h=60&crop=1 (図4)
https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/09/temple_real.jpg?w=80&h=60&crop=1 (図5)
https://techcrunchjp.files.wordpress.com/2018/09/temple_lidar.jpg?w=80&h=60&crop=1 (図6)

https://news.nationalgeographic.com/content/dam/news/2018/02/01/lidar-maya/01-lidar-maya.adapt.536.1.jpg (Top画像)

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マヤ文明の遺跡6万点。上空からのレーザースキャンで発見。

執筆者:株式会社光響  緒方