詳細なCTスキャンデータ【CT生物図鑑】を更に3D造形。レーザー3Dプリントによる超精巧模型。

図鑑には夢と好奇心が詰まっている。
子供の頃には誰しも1冊くらいはお気に入りの図鑑があったはずだ。それは、恐竜図鑑だったり、動物図鑑だったり、星の図鑑や或いはキノコ図鑑、海の危険生物図鑑だったりしたかもしれない。ページをめくれば大好きな恐竜や魚や動物の写真に詳しい解説が付き、好奇心と知的欲求を充分に満たしてくれる重要な学習アイテムだ。
しかし同時に、図鑑に載っている写真と現実に目にした生き物のギャップに衝撃を受ける人が多いこともまた事実なのではないだろうか。例えば、タツノオトシゴの実物が案外小さいことに驚愕した、とか、正面から見たマンボウが薄べったいことにショックを受けた、という経験があるはずだ。これは、2次元かつサイズに限界のある図鑑あるあると言えるだろう。尤も最近は、図鑑+DVDが主流なのでこういう衝撃は減っているかもしれない。
そして、DVD付から更に技術は進んで、図鑑業界は新たなステージに進みつつある。

それが【CT生物図鑑】だ。

このCTは人間ドックや健康診断の時にX線を使って人体の輪切り画像を撮影して中身を見ることができるあのCTのことだ。そう、人間の患者ではなく色々な生物のCT画像を使って外見だけでなくその骨格までも観察してしまおう、という画期的な生物図鑑が今、大いに注目を集めている。
詳しくは下の動画をご覧頂きたい。


*CT生物図鑑 コンセプトムービー – Concept movie

紙媒体である図鑑やDVDでは叶わなかった、「好きな角度から好きなように好きな生物を眺める」を実現した正に夢の3D図鑑の登場というわけだ。既にアカハラヤモリやカワラヒワにイモリ等がUPされ、カブト虫に至っては幼虫、蛹、成虫とその成長過程が網羅されているという熱の入りようだ。人気No.1昆虫不動の1位に君臨する彼らの詳細なデータは、虫好き男児/女児の視線を釘付けにすること間違いなしだろう。実際に手に取らなければあまり見ることがない腹側や後ろ斜め下から、といったようなレアな角度で観察可能な上、体の構造まで見尽くすことができるわけだから、子供ならずとも興味津々となる方は少なくない筈だ。一体どんな構造になっているのか気になるハリセンボンや沢蟹のデータも公開されていて、非常に好奇心をそそられる。

人の知的好奇心は止まることがない。生物の立体的なデータを見ることができるようになれば、当然次の段階に進むものだ。見る、の次は、「触る」だ。なんと、この詳細なCTスキャンデータを元にした立体模型も製作されている。それが、コレだ。

もはや模型というレベルを超えるリアリティだ。
これは、粉末焼結造形の3Dプリンターを使って製作されたカワラヒワ。ナイロンの粉末をレーザーの熱で焼き固め、層を積み重ねて作る工法だ。

強度・耐衝撃性能が高く耐熱性も高い為車のパーツ作成等によく使われている。また、粉末が敷き詰められた槽内で造形するので造形物を支える為のサポート材は不要だ。一方でナイロン粉末の大きさ以下の形状は再現できない他、急速に冷却すると「そり」が出てしまう為冷却時間がかかり、同じく冷却が均一でなければやはり「そり」が出てしまう、という注意点もある。仕上がりは白色で不透明だ。


*タツノオトシゴ / CTスキャンデータから3Dプリント

こちらはタツノオトシゴの3Dプリントの様子だ。じわじわとタツノオトシゴが浮かび上がってくる過程はある種の気持ち良さを感じさせてくれ、骨格を見ても、タツノオトシゴは明らかにタツノオトシゴなのだ、という奇妙な説得力がある。
紫外線を当てると硬化する性質のあるエポキシ樹脂に紫外線レーザーを照射して硬化し、それを積層して造形する光造形で作られている。先ほどの粉末焼結造形と違って透明や半透明の仕上がりが可能だ。

紫外線によって硬化するので、熱溶融積層法や粉末焼結方式よりも「そり」が少なく、レーザーが照射された場所だけが硬化するのでレーザー径が小さければ小さいほど微細な加工を施すことが可能だ。一方で、造形する前に造形物を支える為のサポートの設計と造形が必須で、完成後にはそのサポート材を外さなければならないという一手間がかかる。また、強度も低いので自重での破損や変形にも注意が必要だ。

目で見て、そして触ることができる、というのは好奇心や知的欲求を満たす最高の過程ではないだろうか。【CT生物図鑑】で公開されているデータは今のところ11種。まだまだ多いとは言えない数だが今後着実に増えていく筈だ。身近な生物だけではなく、例えばペンギンやマンボウといった誰もが知ってはいるけれども詳細知られていない、という生物をくまなく眺め回せる日が来るかもしれない。そして、その詳細なデータから作り上げられた精巧な模型に触って確かめることができる日も遠い先の話ではないだろう。生き物好きには堪らない、この先が非常に楽しみな技術と図鑑であることは間違いない。

最後に、ペンギンの足と首は実は長く、マンボウの腹には骨が無い。

遠い遠い未来に化石として発見されたら絶対にリアルな姿を再現できる気がしない。こういう中身と外見のギャップのある生物が【CT生物図鑑】に載る日を心待ちにしている。そして、大きな動物好きの方にはちゃんと朗報がある。大きすぎてCTスキャンできないかもしれない、という心配はご無用だ。世の中にはきちんと大型動物用のCTスキャン装置が存在している。例えば、ロンドン動物園にはゾウ用の装置が設置されているそうだ。なので、どんな方も安心して【CT生物図鑑】の進化を見守って頂きたい。

参考
*CT生物図鑑
https://ctseibutsu.jp/

*株式会社JMC
https://www.jmc-ct.jp/
https://www.3d-printout.com/ex/seibutsu/img/ctseibutsu_top.jpg (Top画像)
https://www.3d-printout.com/ex/seibutsu/img/ctseibutsu_1.jpg (図1)
https://www.3d-printout.com/study3d/study_sls1/img/study_sls1_1.png (図2)
https://www.3d-printout.com/study3d/study_sla1/img/study_sla1_1.png (図3)

https://rr.img.naver.jp/mig?src=http%3A%2F%2Fimg06.shop-pro.jp%2FPA01137%2F526%2Fproduct%2F45622602.jpg%3F20120709142823&twidth=1000&theight=0&qlt=80&res_format=jpg&op=r (図4)
https://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/uodas/ocean_sunfish/image/bone/01.gif (図5)

執筆者:株式会社光響  緒方