- 隕石に由来する高機能磁性材料「L10型FeNi規則合金」の人工創製に成功しました。
- パルスレーザー蒸着装置を精密制御し、結晶構造を規則化させる新手法を開発しました。
- 次世代電子デバイスや電気自動車のモーター等、環境エネルギー技術への貢献が期待されます。
- 本論文は米国科学誌「Applied Physics Letters」に2月19日(米国時間)に掲載されました。
【研究の背景】
希少資源の枯渇やエネルギー問題の深刻化を背景に、低環境負荷で高性能な磁性材料の実現が求められています。「L10型FeNi規則合金(L10型FeNi)」はレアアースフリーで高い磁気機能を有することから、これらの期待に応えうる新しい機能性磁性材料です。本材料は鉄(Fe)とニッケル(Ni)が原子スケールで規則的に並んだ特殊な構造をもち、磁気モーメントや磁気異方性と呼ばれる磁気特性に優れています。
L10型FeNiは元々鉄隕石に含まれるユニークな磁性材料で、その形成には46億年が必要とされていました。これまで我々は天然の隕石の解析や電子スピン状態の解析などを行ってきました。また近年では分子線エピタキシー法や巨大ひずみ加工法、脱窒素法など様々な材料作製手法が報告されており、世界的な研究開発が加速しています。その一方で、L10型FeNiの成長機構には未だ謎が多く、その作製技術には議論の余地が多く残されています。そこで本研究では超平坦な薄膜を作製可能なパルスレーザー蒸着法に着目し、L10型FeNiの人工創製を行いました(図 1)。
【研究成果の概要】
東京理科大学の小嗣真人准教授らの研究グループは、パルスレーザー蒸着装置を精密制御し、L10型FeNiの作製技術を開発しました。パルスレーザー蒸着法は原子層スケールでほぼ理想的な薄膜を作製できるのが特徴です。ArduinoTMによるハードウェアの高度化と LabVIEWTMによる制御ソフトウェアを開発し、表面形状や膜構成などを精密制御するシステムを構築しました(図 2)。
物性解析は、大型放射光施設SPring-8のBL46XUを用いたX線構造解析と、東京大学物性研究所の超伝導量子干渉磁束計、また理科大の原子間力顕微鏡を用いて行いました。一連の解析を様々な試料作製パラメーターについて系統調査し、プロセス条件を最適化しました。
その結果、L10型FeNiの形成を確認すると共に、成長温度 300℃でL10型構造の形成が最も促進していることを確認しました(図 3)。本温度は従来法と異なる値で、パルスレーザー蒸着特有の膜生成が起こっていることが示唆されます。
図 3 作製された試料の特性
表面自由エネルギーの観点から島の形状と結晶構造を議論した結果、パルスレーザーの瞬間的な昇華と高密度の生成核が起源となって、L10型FeNiの形成に至ることがわかりました。本研究を通じて、パルスレーザー蒸着が L10型FeNiの作製に有用であることを世界で初めて実証しました。
【今後の展望】
L10型FeNiはレアアースフリーで高い磁気機能を示すことから、次世代のスピントロニクスデバイスや、電気自動車用途の高効率モーターなど、我が国の新しい環境エネルギー技術として、様々な社会展開が期待されます。
出典:https://www.tus.ac.jp/today/20190220002.pdf
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