ピコ秒で動作する超高速メモリの実現に向けた新たな進展/半導体中の強磁性ナノ微粒子からの巨大テラヘルツ磁化応答

1.発表者:
石井友章(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 博士課程3年生:研究当時)
山川大路(東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻 博士研究員)
金木俊樹(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 博士課程3年生:研究当時)
宮本辰也(東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻 助教)
貴田徳明(東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授)
岡本博 (東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻 教授)
田中雅明(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 教授)
大矢忍(東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/電気系工学専攻 准教授)

2.発表のポイント:
◆半導体中に埋め込まれた強磁性ナノ微粒子に超短テラヘルツパルス光を照射することにより、磁化の大きさを約20%変調することに成功しました。
◆この値は、従来の強磁性金属薄膜で報告されてきた値の約20倍以上の非常に大きな値です。
◆本成果は、ピコ(1兆分の1)秒で動作する超高速の不揮発性メモリの実現につながるものと期待されます。

3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科の石井友章博士と大矢忍准教授のグループ、田中雅明教授のグループ、および東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本博教授の研究グループは、強磁性ナノ微粒子を半導体中に埋め込んだ試料に対して、超短テラヘルツパルス光(テラヘルツ:1012Hz)を照射し、飽和磁化の約20%という強磁性薄膜を用いた従来の研究で得られていた大きさの約20倍以上に相当する巨大な磁化変調を得ることに成功しました(図 1,2)。超短テラヘルツパルス光のパルス幅はピコ秒(1兆分の1秒)と非常に短く、この短い時間スケールでは、磁化は磁気的な摩擦の影響をほとんど受けずに光パルスの波形に追従して高速に動くことが知られています。そのため、磁化をピコ秒で極めて高速に反転できるようになる可能性があります。今回、研究グループは半導体中に強磁性ナノ微粒子を埋め込んだユニークな試料を用いることにより、大きな磁化変調を実現しました。本成果は、ピコ秒での磁化反転を利用した超高速不揮発性メモリの実現などにつながるものと期待されます。

4.発表内容:
①研究の背景・先行研究における問題点
ピコ秒(1兆分の1秒)程度の非常に短いテラヘルツパルス光(テラヘルツ:1012 Hz)を強磁性体に照射すると、そのパルス波形に応答する形で磁化が高速に変調されることが知られています。これは、ピコ秒の時間スケールでは、通常、磁化が動くときに感じる摩擦の影響に比べて、光パルスの影響の方がはるかに大きくなるためです。従って、磁化を効率的にかつ高速に変調することができます。従来の技術では、磁化はナノ秒(10億分の1秒)程度で反転しますが、この新しい技術を応用することにより、それよりも1000分の1程度短いピコ秒の時間スケールで、磁化を高速に反転できるようになることが期待されています。しかし、従来の強磁性金属薄膜を用いた研究では、磁化変調の大きさは飽和磁化の1%程度以下であり、変調が小さいことが大きな問題でした。

② 研究内容
光は電界成分と磁界成分をもっていますが、従来の強磁性金属薄膜を用いた磁化のテラヘルツ変調の研究では、光パルスの「磁界成分」が磁化変調に直接寄与していると考えられてきました。しかし、東京大学の研究グループは、以前の研究で、半導体をベースとした特殊な強磁性材料を用いると、光の磁界成分だけでなく「電界成分」を磁化変調に大きく寄与させることができることを明らかにしました。静電界により磁化が制御できることは近年さまざまな研究で明らかになってきており、電子の軌道と電子のスピンを結び付けているスピン軌道相互作用という相対論的効果などにより、これらの現象は説明されています。研究グループが用いた半導体をベースとした強磁性材料では、テラヘルツパルスの照射により、スピン軌道相互作用等に起因したテラヘルツ波の電界成分による高速な磁化の変化が起こっているものと考えられます。本研究グループは、半導体ガリウム砒素(GaAs)中に強磁性マンガン砒素(MnAs)のナノ微粒子が埋め込まれた膜厚100 ナノメートル(nm、ナノメートルは 10-9m)の薄い試料を用いました(図2(a))。テラヘルツ光は、半導体GaAs中をほとんど減衰することなく進むことができます。従って、光パルスにより各ナノ微粒子に大きな電界を加えることができると考えられます。研究グループは超短テラヘルツパルス光を試料に照射すると同時に、プローブパルス光を照射して、磁化がテラヘルツパルス光に対してどのように変化するかをプローブ光の偏光面の回転を測定することにより観測しました。200 kV/cmというスイスのグループ等による先行研究で用いられているよりも小さなテラヘルツパルス電界を用いたにも関わらず、磁化の変調量は飽和磁化の 20%に及んでおり、従来の研究の約20倍以上の大きな磁化変調が得られました(図 2(b))。このように強磁性ナノ微粒子が半導体に埋め込まれた材料を用いることによって、テラヘルツ光に追従した極めて大きな磁化変調が得られることが分かりました。

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