クモを捕食する暗殺者。アサシンバグの狩りの秘訣をレーザー振動計で徹底調査

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地球上でプレデター、つまり捕食者と言えば、ライオンや虎或いは鷲や鷹という猛獣や猛禽類を思い浮かべるだろう。体が大きく力が強く荒々しい肉食獣こそが捕食者である、という認識は至極真っ当だ。しかし、強靭な筋肉や大きな体を持たないが非常に優秀な捕食者、という生物が存在する。

クモだ。

虫、と一括りにされているが昆虫ではなく分類的には節足動物だ。節足動物門鋏角亜門クモガタ綱クモ目に属している。アラクノフォビア(蜘蛛恐怖症)などというものが存在する程、クモ嫌いな人は相当数いると思うのだが、捕食対象となっている昆虫や小生物にとってはそんな生易しいものでは無い程の恐怖の存在だろう。
地球上に3万種程存在するクモのほぼ全てが肉食。昆虫だけに止まらずカエルやトカゲ、種類によっては鳥をも捕食するかもしれない正に生粋のプレデターなのだ。


図1,2:ゴライアスバードイーター。カエルやトカゲを捕獲する。鳥も食べると言われている。

虫だけでなく小動物にも脅威となるこの節足動物クモ目だが、このプレデターを捕食するプレデターもまた存在する、というのが自然界の面白いところだ。
ある程度の大きさのある鳥やヘビであれば特段の注目を集めることは無い。しかし今回お伝えするのは、昆虫だ。本来餌食となる筈の昆虫の中に、クモを捕食する静かな暗殺者が存在するというのだ。

その昆虫は「サシガメ」。カメムシ目カメムシ亜目のサシガメ科に属し6,000種程が世界各地に生息している。一般的なカメムシが草食であるのに対し、このサシガメ科は肉食。そして標準的な六角形ではなくスリムなスタイルや長い首、前胸から前方に離れ左右に突き出している複眼等、見た目はかなり異なっている。このカメムシ目としては異端の風貌を持つサシガメ。その中でも極めて長い首を持つ、その名も「ジラフ・アサシンバグ」がクモを襲う暗殺虫だ。


図3:ジラフ・アサシンバグ。名前の由来となったキリンのような長い首が特徴

彼らの生態の殆どは謎に包まれているが、その暗殺手口の見事さは良く知られている。
先ず前提として、クモを獲物にするというのは非常に難易度が高い。四方八方に張り巡らされた巣は、その糸の粘着性により極めて優秀な捕獲装置であるのと同時に、超高性能の警報装置でもある。獲物のかかった位置も破れた箇所もあらゆる情報が糸を伝って巣の主に伝えられているのだ。この巣を攻略しない限りクモを捕食することは、力技で突破できない昆虫にとって非常にハードルの高いものになる。
では、ジラフ・アサシンバグはこの難攻不落の牙城をどのように攻略しているのか。このアサシンバグの研究者であるフェルナンド・ソリー氏は彼らがクモの巣を切って接近しても、クモが察知しないことに着目して実験を行った。
室内に張られたユウレイグモの巣をジラフ・アサシンバグに襲撃させ、レーザーのドップラー効果を使って非接触で表面の振動の周波数と振幅を計測するレーザー振動計でクモの巣を計測した。結果、この暗殺者は、クモの巣に与える振動を極限まで抑える為に知恵を巡らせていることが判明したというのだ。
彼らは柔らかい糸を掴んで、まるで水飴の様に引き伸ばし糸が切れると、その切れた端を離さずに掴み続けることで、反動によって起こる振動を最小限に留めているのだ。また、扇風機で風を送って巣を揺らすと糸を切ったり、一定時間ごとに切ったり、クモが巣の見回りを始めると後退する等、巣に振動を与えずに攻略する為に非常に慎重に行動していることが判明した。ジラフ・アサシンバグは、鉄壁と思われた振動というクモの巣の警報装置を巧妙に無力化することで、巣の主を捕食しているのだ。


図4

最後に、サシガメはカメムシ目に属している。独特の臭気を特徴とするカメムシ目のご多分に漏れず、サシガメも耐え難い臭いを発する種が存在する。皮膚に付着するとあの臭さが暫くの間染み付くことになるので注意が必要だ。また、昆虫食の種は、農業や林業の現場では益虫の一種であり、松を食い荒らすことで有名なマツカレハの天敵として知られており、強烈な痒みを与えてくるトコジラミの天敵でもある。一方で吸血種のサシガメは病原体を媒介する衛生害虫でもあるので、容易に触れることは避けた方が良いだろう。

参考
*National Geographic
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/102700015/
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/102700015/ph_thumb.jpg?__scale=w:500,h:268&_sh=0b109507d0 (図3)
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/102700015/ph_01.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=02708403e0 (図4)

http://sekaino-bukimi.com/wp-content/uploads/2018/06/ad30a895a7affc279aaa664f9ec60bbc.jpg (図1)
http://sekaino-bukimi.com/wp-content/uploads/2018/06/15572582446980fcb0dcfba5821fced1.jpg (図2)

https://taskle.jp/media/uploads/content/image/15537/688944329.jpg (Top画像)

執筆者:株式会社光響  緒方