(レーザー関連)世界最高、400 GW/cm2の耐光性能を実現/高出力の産業用パルスレーザー装置向け空間光制御デバイスを開発

当社は、独自の薄膜設計技術と回路設計技術により、世界最高となる400 GW/cm2の耐光性能を持つ、液晶を用いた空間光制御デバイス(Spatial Light Modulator、以下SLM)の開発に成功しました。高出力の産業用パルスレーザー装置に本開発品を応用することで、軽量かつ高強度の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をはじめとする難加工材料の高速、高精度の加工が実現できると期待されます。本研究開発の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」(管理法人:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、QST)の委託事業によって実施されました。
この課題は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させるサイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System、以下 CPS)による革新的なものづくりの実証を目指しています。SLMは、レーザーの照射パターンを自由に制御できることから、CPS型レーザー加工システムをはじめとする、人工知能(AI)を用いた新しいものづくりの必須デバイスとして位置付けられています。

<開発の背景>
SIPの第2期課題のうち「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」は、CPSを構成する技術要素のうち、技術革新が望まれる「レーザー加工」「光・量子通信」「光電子情報処理」の3領域を研究開発テーマに掲げています。これらのうち「レーザー加工」では、難加工材料などのレーザー加工を先行例とし、CPS 型レーザー加工システムによる革新的なものづくりの実証などを目指しています。CPS 型レーザー加工システムでは、多数の条件で対象物にレーザーを照射して得た加工結果のデータを集積し、AIを用いて適切な加工条件を選択します。これにより、人手による試行錯誤の時間を短縮し、設計や生産工程を最適化したレーザー加工が実現すると期待されます。このため当社は「光・量子を活用した Society 5.0実現化技術」における研究開発の参画機関として、SLMの性能向上に取り組んできました。

<SLMの仕組み>
SLMは、レーザーなどの入射光の波面を液晶で制御することで、反射光の波面形状を自由に調整できる光デバイスです。画素電極付きのシリコン基板と透明電極付きのガラス基板の間に液晶層があり、コンピュータからの信号を受けた画素電極で液晶の傾きを制御し入射光の通り道の長さを変え反射することで、入射光の分岐や歪みの補正など、レーザーの照射パターンを自由に制御できます。

<開発品の概要>
本開発品は、世界最高の耐光性能を持つ、高出力の産業用パルスレーザー装置向けSLMです。レーザーは、一定の強さを連続して出力する CW(Continuous Wave)レーザーと、短い時間間隔で繰り返し出力するパルスレーザーに分けられます。CWレーザーは、溶接や切断など、金属材料の熱処理に利用できるためレーザー加工の主流となっています。一方、パルスレーザーは、瞬間的に高いエネルギーを照射することで、熱の影響による破損を抑え高い精度で加工できます。このため、CFRPや半導体集積回路の動作速度の低下を防ぐ低誘電率(low-k)材料などの難加工材料において、従来の機械加工と比べ精度の高いパルスレーザー加工が注目されていますが、加工速度の向上に課題がありました。SLMを産業用パルスレーザー装置に組み込むことで、分岐した複数のレーザーを同時に照射でき、1点に集光したレーザーで加工する方法と比べ加工速度が向上しますが、加工に必要な出力が不足していました。このような中、従来よりも出力の高い産業用パルスレーザー装置が市販され始め、耐光性能の高いSLMに対する要求が高まっていました。当社はこれまで、製造ライン上を高速に移動する対象物に文字やQRコードを刻印するレーザーマーキング用途などに向け、耐光性能の高い光の波面制御デバイスを開発、製造してきました。今回、入射したレーザーを反射する誘電体多層膜ミラーの薄膜設計と画素電極の回路設計を見直すことで、耐光性能を従来製品の10倍以上となる400 GW/cm2まで高めました。
従来の誘電体多層膜ミラーは、2種類の材料が交互に複数積層されていますが、薄膜が接する界面で光が干渉し強め合うことから、高出力のレーザーが入射すると薄膜が破損してしまうという課題がありました。このため、シミュレーションを用いて各層の膜厚の設計を最適化し、界面での光の干渉を抑えることで、薄膜への影響を抑制することに成功しました。また、画素電極の回路設計を工夫しノイズの発生を抑えました。本開発品により、従来よりも高出力のパルスレーザーを分岐しながらも加工に必要な出力を維持し対象物に同時に照射することで、航空機や輸送機器向けCFRP、第5世代移動通信システム(5G)機器向け low-k材料などの難加工材料の高速、高精度の加工が実現できると期待されます。

<今後の取り組み>
今後、さらなる耐光性能の向上を進めます。また、今年度中に本開発品を東京大学のCPS型レーザー加工システム、および宇都宮大学オプティクス教育研究センターに開設している実用化プラットフォームのレーザー加工機に搭載し、社会実装を推進します。

項目 本開発品 単位
対応波長 1050(±50) nm
入力信号 Digital Video Interface (DVI)
入力信号階調数 256(8 bits) levels
画素数 1272 × 1024 pixels
有効エリアサイズ(W×H) 15.9 × 12.8 mm
画素ピッチ 12.5 μm
開口率 95 %

出典:https://www.hamamatsu.com/resources/pdf/news/2020_07_01.pdf

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