(レーザー関連)フォトンブレインジャパン/『先端レーザー装置&加工のグローバルトレンド』

1. はじめに
サンフランシスコ@米国で毎年2月初旬に開催されるレーザー装置&光学製品に関する世界最大規模の展示会【Photonics West 2023】、ミュンヘン@独国で2年に一度6月下旬に開催される先端レーザー装置〜加工システム&光学製品が出展される展示会 【Laser World of Photonics 2023】、及び毎秋季に国内の幕張メッセで行われる光・レーザー技術に関する展示会【Photonix 2023】等に参加し、展示された最新技術&装置等を調査した結果に基づき、2024年以降のレーザー装置の開発&適用加工動向や市場動向を俯瞰したので以下に報告する。
トピックスとして、1.半導体レーザー装置においては、出力UP、大面積化、低価格化が進展したことにより、レーザー光をColdな熱源とした焼成・乾燥用用途が拡大している。2.Deep UV領域(〜266nm)の超短パルスレーザーの高出力&長寿命化を実現した商品が大手レーザーメーカ2社から同時に発表され、大画面有機ELパネルの製造用途への応用が活発化している。3.レーザー出力とビームプロファイルを独立して制御可能なファイバーレーザーが欧米のレーザーメーカだけでなく中国のレーザーメーカからも製品化され、様々な鋼板の精密&高速切断用途や高品質溶接用途として発売されるようになって来ている。4.空冷&kW超級のファイバーレーザが搭載されたハンドヘルドレーザー溶接装置が米・中国メーカから発売され、従来のプラズマ溶接機やTig溶接機の代替溶接機として急速に普及している。5.高反射&高熱伝導材である銅、アルミ等の溶接用途として高出力のBlue発光半導体レーザー装置についても、欧・米・台、日本国内で高出力&高輝度の新商品が発表されている。
以上1〜5の加工用途について新規に発売された機種を主体に各モデルの仕様調査を行ったので、その結果を以下に報告する。

2. レーザー装置の開発&適用市場動向
2.1 高出力LDを利用したCOLDヒーターの出現

IPG社といえば、世界最大のファイバーレーザー(FL)メーカーであり、以前から鋼板の切断、溶接用途の高出力FLを商品化しており、近年は電動モーターの銅製巻線や銅端子の接合に対応したモード可変FLや車載用二次電池の電極箔の高速&高品質切断に対応した高出力nsec FLを商品化していた。【Photonics West 2023】では、新たなLDの用途として二次電池電極の焼結乾燥炉の熱源として、最大LD出力60kW@960~985nmの高出力半導体レーザー(LD)を商品化、更に【Laser World of Photonics 2023】では100kW モデルを展示していたのには驚かされた(図1参照)。

ここで従来の一般的な製造工程を説明しておくと、液系リチウムイオン電池の製造工程は一般に、金属化合物の正極材や黒鉛を主成分とする負極材に液状のバインダー(接着剤)などを混ぜてスラリーといわれる流動性のある状態にする。
次にスラリーを金属箔に塗工し、乾燥するとシート状の電極になる。この乾燥炉は長さが50~100mに達する巨大な装置で、電池事業の投資額を莫大にし、CO2排出量が多くなる主因となっている。この乾燥炉の熱源として、従来の化石燃料を燃焼する方式からLD光を照射する方式に変更することで、CO2排出ガスが無くなるだけでなく、乾燥時間が〜1/3、同コストが〜1/7にも改善されるという。更に、レーザー光照射による乾燥炉では、乾燥中に発生する有機溶剤が含まれる高温雰囲気ガスを炉外部に積極的に排出できるので、引火爆発する危険性もなくなり非常に安全な乾燥工程となる特長も有する。また、図1に示したように高出力LD光源の乾燥工程への適用は、シート状電極のスラリー乾燥用途 だけではなく、自動車用部品や事務機の厚塗りパウダー塗料の乾燥用途にも適用可能であると【Laser World of Photonics 2023】でIPG社が展示していた。
また、同様の装置は、図2に示したLaserline社の高出力LD装置@900〜1070nm、図3に示したTrumpf社のLD装置@980nmも展示があり、この乾燥炉の熱源としてLD光が使用される事が一気に新潮流になって来たのではないかと感じた。
LD光が乾燥炉の熱源として利用されるようになった背景には、近年1kW以上の高出力FLが年間で数千台以上販売される様になり、同FL励起用として高出力LDが大量に安価に製造される様になって来た事が背景あると考えられる。

出典
https://www.laserline.com/en-int/news-detail/press-release-research-projekt-ideel/

図3に示したTrumpf社のLDは、他社の一般的な端 面発光型 LD(EEL)と異なる構造の面発光型 LD、VICSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)である。VICSELといえば、近年携帯電話に搭載されている顔認証用の計測用LD光源という微弱出力のLDというイメージであったが、大面積を強力に照射する熱源として使用できる程の高出力化をTrumpf社はVICSELで実現し、仕様値として光強度は1MW/m2@980nmとなっており、地上に照射する太陽光の約1,000倍高い照度まで達成していたには驚かされた。

2.2 Deep UV &超短パルスレーザーの高出力化
近年,電子部品や精密機械部品等の更なる微細化,高品質化、高速加工化のニーズが高まり、Deep UV波長&超短パルスレーザー装置の高出力商品が待望されている中で、今回の【Photonics West 2023】では漸く量産対応可能な高出力レーザー装置が大手レーザーメーカー2社から同時に商品化され、初出展&初公開された。図4にはIPG社のDeep UV波長の1CW レーザー、2nsec レーザー、3psecレーザー装置の展示状況を示した。開示された以下のサイト

https://investor.ipgphotonics.com/press-releases/press-release- details/2023/IPG-Photonics-Launches-Three-High-Power-Deep- Ultraviolet-Lasers-for-Micromachining/default.aspx

によれば、

1
CWレーザーは出力3W@266nmのFL、用途は検査、フォトリソグラフィー、FBG書き込み、ディスクのリマスタリング、分光法等。

2
nsecレーザーは平均出力5W@266nmのFL、パルス幅1.5nsec、最大2 μJパルス、用途はガラス、ダイヤモンド、テフロン等の加工困難な材料のマイクロ切断、穴あけ、テクスチャリング、マーキング、選択的な材料除去等。

3
psecレーザーは5W@257nmのFL、最大5μJ@1psecパルス、用途はPCB、LED、およびフラットパネルディスプレイのマイクロ切断、穴あけ、および選択的 な材料除去用とされている。

また、図5にはCoherent社が本展示会に合わせてHP上で発表したDeep UV波長&超短パルスレーザー装置を示した。同社の関連HPによれば、Deep UV光領域での超短パルスレーザーでは世界最大レベルの平均出力10W@266nm、最大12.5μJ @<10psecパルスを仕様値としている。特長は、社内で結晶成長およびコーティングする非常に特別な独自の非線形クリスタルを採用したことで、大量生産環境での長期間動作が可能になったという。用途として、OLEDディスプレイの周りの微細なチャネルをアブレーションできるのでベゼルフリーの大画面OLEDが実現できるという。

https://www.coherent.com/content/dam/coherent/site/en/resources/datasheet/lasers/hyperrapid-nxt-266-ds.pdf

2.3 レーザー出力、ビーム径、ビームプロファイルを独立して制御可能なファイバーレーザー商品
レーザー加工における加工速度&品質を決定するのは、そのビーム集光点におけるレーザー出力、ビーム径、焦点深度だけではなく、ビーム形状を加工の種類、材料、板厚等に応じて最適化する事が重要であり、近年のFLにおいては図6に示したようにビームプロファイルをビーム中心強度とその周囲の出力強度を独立して制御できるような手段を開発し、これを実現している。

https://www.ipgphotonics.com/jp/203/FileAttachment/AMB +Welding+Benefits.pdf

図7、8には、このビームプロファイルが調整可能なFLについて、【Laser World of Photonics 2023】で展示されていた欧米製&中国製FLを調査し、その仕様 値の比較結果を示した。仕様的には中国製FLは欧米製FLに比較して、今では大きな数値的な差は見られなくなって来ているのが分かる。

2.4空冷&kW超級FLが搭載されたハンドヘルドレーザー溶接装置の普及と適用市場
近年、FLの電気-レーザー光変換効率が〜40%以上と非常に効率良くなって来ているので、平均レーザー出力が500W以下の FL装置の冷却は、【空冷式】が一般的になって来ており、更にハンドヘルド式レーザー溶接装置においては、レーザービームを射出して実際に溶接するレーザーON時間がOFF時間に比べてかなり短いので、平均レーザー出力が1〜2kW程度でも空冷化のFLが商品化されて来ている。この空冷式ハンドヘルド式レーザー溶接機の特長は、劣悪な環境下においても従来の水冷式FLで発生していた結露や凍結の障害や、従来のTig溶接機やアーク溶接機のような消耗品の管理・調整も無くなり、更にFL溶接ではワークへの過剰な入熱が少なく溶接 歪や焼けの発生も低減されるので、高品質な溶接が熟練者で無くても容易に出来るので、屋内外での溶接市 場で急速に普及している。
図9には、【Laser World of Photonics 2023】で展 示されていたIPG社製&中国製FLを調査し、その仕様を比較して示した。

2.5 Blue LD 装置の高出力&高輝度化トレンド
EV搭載用の電動モーターや二次電池では、銅やアルミ製の電極や線材の溶接を行う箇所が多数あるが、一般的な抵抗溶接、超音波溶接、Tig溶接等では電気抵抗が低く、熱伝導性が高い銅やアルミ材の溶接を安定 して高速&高品質に行う事が出来ない。これらの材料に対する従来の溶接方法の欠点を補う方法として、近年では光エネルギーの吸収性に優れた高集光性のBlueレーザー光を用いる溶接方法が開発され、実際の 製造現場に急速に導入され始めている。
また、3次元金属造形用プリンターの粉体溶融用レーザー装置としてBlueレーザー光を熱源とする装置が普及して来ており、同LDの高出力化と高輝度化の商品化競争が激化している。図10には、【Laser World of Photonics 2023】で展示されていたBlue LDの商品化で先導するLaserline社のブースで展示されていた世界最大出力の4kW LD装置を示した。また、Blue LDは国内でも積極的に商品化されており、2023年9月末には古河電工と日亜化学が共同で開発した高出力・高輝度Blue LD装置が報道発表されたのでその商品を図11に紹介した。

https://www.furukawa.co.jp/release/2023/comm_20230926 .html

また表1には、現在、市場に導入、紹介されている各種レーザー装置とその最適な加工用途と主たる製造メーカを俯瞰的に比較したので参考にして頂きたい。

3. まとめ
本稿では、2023年に開催されたレーザー発生装置、レーザー加工機、光学機器関する展示会【Photonics West 2023@サンフランシスコ】、【Laser World of Photonics 2023@ミュンヘン】、【Photonix 2023@東京】等に参加し、これらの展示会等で紹介された最 新技術&装置等を調査した結果に基づき、2024年以降のレーザー装置の開発、適用加工動向や市場動向を以下の項目別に整理して報告した。
半導体レーザー装置においては、出力UP、大面積化、低価格化が進展したことにより、レーザー光をColdな熱源とした焼成・乾燥用用途が拡大している。2.Deep UV領域(〜266nm)の超短パルスレーザーの高出力&長寿命化を実現した商品が開発され、大画面有機ELパネルの製造用途への応用が活発化している。3.レーザー出力とビームプロファイルを独立して制 御可能なファイバーレーザーが欧米のレーザーメーカだけでなく中国のレーザーメーカからも製品化され、様々な鋼板の精密&高速切断用途や高品質溶接用途として発売されるようになって来ている。4.空冷&kW超級のファイバーレーザが搭載されたハンドヘルドレーザー溶接装置が米・中国メーカから発売され、従来のプラズマ溶接機やTig溶接機の代替溶接機として急速に普及している。5.高反射&高熱伝 導材である銅、アルミ等の溶接用途として高出力のBlue発光半導体レーザー装置は、欧・米・台だけでなく国内でも高出力&高輝度の新商品が開発されている。本報告が、今後、読者の方々の生産設備の開発や導入において少しでも参考にとなる資料となれば幸いである。

ご参考:
(株)光響提供の「レーザーセミナー(ライブ 及び オンデマンド配信)」
OptiVideo

・同著者のセミナー

バナー及び纏めリンク
個別リンク
Photonics West 2023年2月(米国サンフランシスコ)
LASER WORLD OF PHOTONICS 2023年6月(独ミュンヘン)
Photonix 2023年10月 (日本:幕張メッセ)

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