オウム顔恐竜のカモフラージュカラー。レーザーと電子顕微鏡が解明

大きい生物はカッコイイ。鋭い爪とか大きな牙とかよく分からない突起とかが付いていたらもっと良い。硬い鱗や謎のフリルや尻尾の先の大きな瘤なんて最高じゃないか。しかも太古の昔に隆盛を極めながら既に絶滅してしまい、今は化石でしか見られないなんてロマンじゃないか。そう、恐竜の話だ。
まるで現代に蘇ったかのようにリアルな恐竜が動き回るイベントや、某恐竜映画の影響もあってかあちこちで取り上げられ、博物館でも恐竜の展示は大人気。子供向けの図鑑ランキングでも動物や昆虫に次ぐ上位に入っている。博物館にも図鑑にも化石だけではなく当然のことながら復元予想図的な、恐竜が生きていた頃の姿が再現されているわけだが、これにはちょっとした問題がある。

「恐竜の色は適当に決めている」という問題だ。

実のところ恐竜の体色というのは殆ど分かっていない。化石として残っている物の多くは骨や歯なのだから当然と言えば当然だ。復元された物やカラーの図鑑に載っている物は現生種を参考に、研究者たちが推測で決めていることが多い。分類学上、恐竜は鳥類やワニ類と同じ主竜類に分類されている。なので、湿地で生活していたと考えられる恐竜はワニの体色を参考に、羽毛の痕跡が見られる恐竜は鳥類の体色を参考にしていることもあるという。図鑑ごとに色が違っていることがあるのはその為だ。「こうだったかもしれない」「こうだったらいいのにな」という研究者の願望も含まれているかもしれない。では、現代を生きる私たちは、どんなに恐竜を好きでも彼らの色を知ることは決してできないのか、というとそうではない。どんなことでも人間の好奇心・探究心は止まることがなく、科学技術の進歩はいつも偉大なものなのだ。

前述したように、発掘される化石の多くは骨格だ。そもそも恐竜たちがこの地球上に生きていたのは6500万年前頃までだ。そんなに遠い昔のものが風化せず散逸もせずに残っていたこと自体が奇跡的であり、本当に運良く土砂や泥に埋もれたものが、これまた極めて幸運にも人間が発見可能な深さに埋まり、更に幸運を上乗せして発見され発掘されて私たちの目に触れる、というラッキー中のラッキーを手にした正に選ばれしものと言うべき幸運の塊が化石だ。しかし、この化石の中でも際立った幸運を持った稀なものが存在する。硬く、化石化しやすい骨格だけでなく、皮膚や内臓の痕跡を残している化石が存在するのだ。驚くべきことに2004年には英国サセックスの浜辺で発見された恐竜の化石には脳組織が含まれていることが判明し、大きな注目を集めた。このイグアノドンの近縁種と思われる化石は死後すぐに低酸素でしかも酸性の水中に沈み、「酢漬け」のような状態になったことで脳の組織が保存されたと考えられている。つまり、凄まじく厳しくはあるが条件が整えば軟組織が保存されることもあり得るというわけだ。
この極めて稀な化石の中に、中国で発見されたプシッタコサウルスがある。聞きなれないが妙に頭に残りそうな名前の意味は「オウムトカゲ」。名前の通りオウムのような顔をした何処となくユーモラスな見た目の恐竜で、白亜紀前期に生息していた。ティラノサウルスやトリケラトプスより少し前の時代だ。

頭部先端に嘴がある草食恐竜でトリケラトプス等の有名どころ恐竜の祖先に当たるのではないかとされているが、大きさは25kg~70kg程と小型。大型犬サイズの恐竜だ。その化石の中に非常に保存状態の良いものがある。下の写真がそれだ。

全身の骨格がバラバラになる事なくきれいに繋がっているだけでなく、尾の先端以外、手足の指先に至るまで見事に保存されているのがお分かり頂けるだろうか。そして、注目すべきは足の付け根や背中に見られる黒い部分だ。これが化石化した恐竜の皮膚だ。この皮膚を分析することで恐竜本来の色を知ることができるようになる。様々な強度や色のレーザーを化石標本に照射して写真を撮影することで骨の表面の特徴をより鮮明に捉えることができる他、肉眼では発見できなかった羽毛や軟組織の痕跡が発見でき、古生物研究の場で必須となっている技術だ。この技術、レーザー誘起蛍光法を使って撮影された写真を詳細に分析。更に、走査型電子顕微鏡で化石に残された非常に微細な色素、ピグメントとメラノソームの大きさを調べる。電子顕微鏡でなければ見ることのできないほど細かなこの色素の大きさが、生きていた時に纏っていた色に関係することは既に知られており、例えば、細長い形状のユーメラノソームは黒褐色、球状のフェオメラノソーム橙赤色という具合に明確に色が判別できる。これは現生鳥類にも引き継がれている。
このレーザー誘起蛍光法と走査型電子顕微鏡を駆使して分析し、復元されたプシッタコサウルスの姿がこれだ。

図1の予想図とは大きく違い、背中は焦茶色、腹側は薄茶色だ。現生動物にも同じような配色が見られるが、恐竜にこのパターンがあることが見つかったのはプシッタコサウルスが初だ。背側が暗く腹側が明るいこの配色は、同時期に中国に生息していた肉食恐竜たち、例えばディロングやユウティラヌスから身を隠すための保護色として役立っていたと考えられるそうだ。また、等身大模型を使った実験によって、平原の直射日光下よりも森林の中のような散乱光の下でこの配色は最も効果的であることが証明され、おそらくプシッタコサウルスはサバンナのようなひらけた場所ではなく、森の中で生活していたと推測されている。
今回の分析によってわかったのは色の濃淡だけではなく、足の内側には縞模様があり、首から胸にかけてと前足の外側には黒っぽい斑点があったことも判明している。遠い昔に絶滅してしまった生物の色がここまで詳細に再現できるとは正に驚愕の一言だ。保護色、カモフラージュが必要だったということは、それだけ捕食される危険があったということだ。体型から見て逃げ足も早くなかったのかもしれない。捕食者の視力はどの程度だったのだろうか。また、オスとメスで色の違いはあったのだろうか、成体と幼体での違いはどうなのだろう。周囲の環境に適応してこのカモフラージュを獲得したのだとすれば、異なる環境下に置かれたプシッタコサウルスは、同種でも違う色をしていたのだろうか。配色が分かったことで生まれる疑問は、プシッタコサウルスの生態を推測する重要な材料になる筈だ。因みに、尻尾の中程に生えている緑っぽいフサフサは、何故尻尾にだけ生えているのかも、何の為にあるのかも今のところは不明とのことだ。
今後、皮膚やウロコ、羽毛が残された化石が発掘される可能性はまだまだあり、既に見つかっている同様の化石で分析されていないものも多くある。これらの分析が進めば、図鑑や博物館の恐竜の色が推測で塗られる、という現状がいつか笑い話になったりする日が来るのかもしれない。或いは、よく知った有名な恐竜が「こんなに派手だったのか!」と驚嘆するような配色だったというような事実に直面することがあるかもしれない。期待しつつ、既存の化石の分析と新たな化石の発見を心待ちにしたところだ。

最後に、体色が判明しているのはプシッタコサウルスの他にも赤い頭がお洒落なアンキオルニスやアライグマのようなシマシマ尻尾を持ったシノサウロプテリクス等がいる。

恐竜、特に羽毛恐竜はこれまで私たちが思い描いてきた姿よりも案外華やかで可愛らしかったようだ。この先、奇跡の鎧竜ボレアロペルタのようなカッコイイ系恐竜の全身配色が分かる日が来ることを、世界中の恐竜ファンが待ち焦がれているだろうということも付け加えておきたい。

参考
*Yahooニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161101-00000004-wordleaf-sctch

*恐竜図鑑
https://www.kyouryu.info/psittacosaurus.php
https://www.kyouryu.info/img/dinosaur/psittacosaurus.jpg (図1)

* NATIONAL GEOGRAPHIC
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/091500348/
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/091500348/ph_thumb.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=0530e30a60 (図2)
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/091500348/01.jpg?__scale=w:500,h:334&_sh=030320c0a4 (図3)
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/030200077/ph_thumb.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=0750100460 (図4)

https://d1z3vv7o7vo5tt.cloudfront.net/medium/article/img1_file59f824949802f.jpg (図5)
https://natsunikki2017.up.n.seesaa.net/natsunikki2017/image/03-thumbnail2.jpg?d=a1 (図6)
https://i0.wp.com/www.fashion-press.net/img/news/30135/gigarex_01.jpg?ssl=1 (Top画像)

執筆者:株式会社光響 緒方