国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の田川義之教授と同大学院博士前期課程修了生の五十嵐大地氏、木村健人氏、遠藤奈々美氏、博士後期課程修了生の横山裕杜氏、特任助教(研究当時)の楠野宏明氏は、針を使わずに柔らかい材料を貫通できる集束マイクロジェットの貫通深度に関わる要因を特定することに成功しました。今後、貫通深度を制御するための指標として用いることで、より安心安全な針なし注射器の開発が期待されます。
本研究成果は、Physics of Fluids (IF=4.6) (4月3日付け)に掲載されました。
論文タイトル:
Optimal standoff distance for a highly focused microjet penetrating a soft material
著者:
Daichi Igarashi, Kento Kimura, Nanami Endo, Yuto Yokoyama, Hiroaki Kusuno, and Yoshiyuki Tagawa
URL:
https://pubs.aip.org/aip/pof/article/36/4/042005/3280689/Optimal-standoff-distance-for-a-highly-focused
現状:
注射針を用いた薬物送達は、薬物を必要な部位に必要な深さだけ正確に届けるという利便性があります。しかし、注射針の再使用による感染拡大の可能性や、注射針に対する恐怖心から、注射針を使わない注射器が開発されています。市販の針なし注射器で使用されている液体噴射口は、先端部の噴射口径がノズル口径よりも大きい拡散形状をしています。拡散形状の液体ジェットは皮膚との接触面積が大きいため、皮膚に加わる垂直応力が大きく、組織に損傷を与える可能性があります。それに対し、本研究では、ジェット生成装置を用いて集束形状の液体ジェットを生成することで、皮膚に加わる垂直応力を軽減しました。これは,農工大学が特許を保有する、凹状の気液界面に撃力が加わることで、液体が集束する技術を利用しています。さらに、レーザーを駆動力として使用することで、より高速のジェットを発生させることができます。この集束マイクロジェットにより、痛みが軽減されるだけでなく、ジェットの貫入効率と制御性の向上が期待されます。しかし、浸透深さに影響する因子が完全に解明されていないため、未だ実用化には至っていません。
研究体制:
本研究は、東京農工大学大学院 田川義之教授(工学研究院先端機械システム部門)、五十嵐大地氏(工学府博士前期課程修了)、木村健人氏(工学府博士前期課程修了)、遠藤奈々美氏(工学府博士前期課程修了)、横山裕杜氏(工学府博士後期課程修了)、楠野宏明氏(特任助教(研究当時))により実施されました。本研究は、JSPS 科研費 20H00222、20H00223、20K20972、PRESTOJPMJPR21O5、AMED JP22he0422016 の支援を受けて行なわれました。
研究成果:
本研究では、浸透深さに大きく影響する、柔らかい材料に対するジェットの貫通深度を調査しました。まず、注入管の内径と、液面と柔らかい材料との距離、の2つのパラメータを変化させてジェットの貫通実験を行いました。興味深いことに、貫通深度は液面から一定距離でピークに達し、注入管の内径が増加するにつれて、その距離がより遠くになることが判明しました。次にマイクロジェットの速度分布を分析することにより、貫通深度のピーク距離と最大速度の関係がジェット形状の影響により変化することがわかりました。これを解明するために、速度とジェット形状を統一する物理量「ジェット圧力力積」の概念を提唱しました。ジェット圧力力積とは,単位時間,単位面積あたりにかかるジェットによる力であり、ジェット圧力力積が大きいことは、ジェット断面積が小さく、速度の大きい「鋭い」ジェットが生成されていることを指します。さらに数値シミュレーションを使用して実験条件を複製し、ジェット圧力力積を計算しました。その結果、ジェット圧力力積の大きさと貫通深度との間に相関があることが示され、これが重要な因子であることが示されました。本研究結果は、集束マイクロジェットの貫通深度を制御するためのジェット圧力力積の重要性を示し、針なし注射技術の実用的な知見を提供するものです。
今後の展開:
本研究により、無針注射の実用化に向けたさらなる知見が得られました。今後は、貫通する物体の硬さの影響や薬効などについて検討し、さらなる実用化を目指します。
図 1 (a)集束ジェットによる針なしで液体を生体模擬材料に注入する様子の概略図と(b)(c)実際の実験結果。©Tagawa et al., 2024. Phys. Fluids 36, 042005 (2024); doi: 10.1063/5.0202757, under a Creative Commons Attribution (CC BY) license (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).
図 2 各内径 d における気液界面からの距離 L に対するジェットの浸透深さ D(左軸)とジェット圧力力積Π(右軸)。©Tagawa et al., 2024. Phys. Fluids 36, 042005 (2024); doi: 10.1063/5.0202757, under a Creative Commons Attribution (CC BY) license (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
先端機械システム部門 教授
田川 義之(たがわ よしゆき)
TEL/FAX:042-388-7407
E-mail:tagawayo@cc.tuat.ac.jp
出典:
https://www.tuat.ac.jp/documents/tuat/outline/disclosure/pressrelease/2024/20240416_01.pdf
ご参考:
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