自在な発光分子結晶の低次元化を実現
【概要】
現在工業的に用いられている有機LEDなどに対する次世代の光源として、有機マイクロレーザー(*1)が注目されています。しかし、有機固体レーザーの機能発現は高い発光量子収率(*2)を有する分子に限られ、また、次元性によって様々にレーザー特性が変化します。特に、低次元化(*3)した状態では、光の閉じ込め効果が大きく、発光効率が高くなります。そのため、低次元化とその次元性制御が重要ですが、分子によってとりやすい次元性は決まっており、それらを制御することは困難です。
高知工科大学の松尾 匠助教と林 正太郎准教授は、自己組織化(*4)の手法を新たに開拓し、高い発光量子収率を有する分子材料を意図的に2次元、1次元、0次元の構造体に自己組織化させることに成功しました。さらに、それらがレーザー媒質として機能することを明らかにしました。
この成果は、2024年4月3日、The Journal of Physical Chemistry Letters誌(ACS Publications)に掲載されました。
【用語解説】
*1) 有機マイクロレーザー
レーザーを放出することが可能なマイクロサイズの有機固体材料。
*2)発光量子収率
材料の発光性を評価する指標のひとつ。吸収した光の量と発光量の比。高いほど発光性に優れる。
*3) 低次元化
2次元、1次元、0次元にすること。板状(2次元)、針状(1次元)、ドット状(0次元)などを指す。
*4) 自己組織化
結晶化など、分子が規則的に集合する秩序立った構造や形状をとること。
【研究の背景】
AI(Artificial Intelligence)や IoT(Internet of Things)の進展に伴い、近年の情報通信量は爆発的に増大しており、現在主流の電子デバイスに代わるものとして、さらに高速での情報処理が可能とされる光デバイスが注目されています。
その中でも、レーザーデバイスは、効率の良い情報通信が期待できます。特に、有機マイクロレーザーは、安価かつ簡便なプロセスで作製でき、さらに発光体とレーザー共振器が一体となっていることから、小型光通信モジュールに組み込むことができるデバイスとなります。
レーザー光を放出する媒体として、有機マイクロ結晶がありますが、それらから放出されるレーザー光の放出方向は、結晶の形状に左右されるため、形状を様々に制御することが重要です。(例示;図1)
【研究内容と成果】
研究を始めるにあたり、有機マイクロレーザーの機能発現が期待できる分子として、固体状態の発光が溶液状態と比べて最大140倍程度にまで増大するとされるビフェニルフロマニトリル(bis(biphenyl)fumaronitrile)という分子を選択しました。
溶液中での再結晶法では2次元に伸びた板状結晶(図2a)、 KBr単結晶基板上でのエピタキシャル成長では1次元に伸びたニードル結晶(図2b)、ガラス基板上での溶液揮発法では0次元に成長したマイクロドット(図2c)が得られました。有機分子は、その分子構造により、ある程度決まった形状をとって自己組織化しますが、本研究では、自己組織化手法を新たに開発することによって、1種類の分子を様々な次元性の構造に成長させることができました。
その結果、2次元結晶と1次元結晶からは、光励起によるレーザー放射が観測されました。その形状から、2次元結晶では等方的なレーザー放射が、1次元の結晶では一方向へのレーザー放射が起きていると考えられます。
【今後の展開】
レーザー光の放出を自在に操作できるようになれば、小型かつ自己組織化のみで作製できるマイクロレーザーを用いたレーザーデバイスを小型通信モジュールに組み込むことができると期待されます。
【研究資金】
本研究は、JST創発的研究支援事業JPMJFR211W、日本学術振興会科学研究費補助金(17H05171、22K14671)の支援を受けて行われました。
【論文情報】
タイトル:
Lasing in Low-Dimensional Crystals of a Fumaronitrile-Based
Luminogen(フマロニトリル発光体の低次元結晶からのレーザー発振)
著者:
Takumi Matsuo, Shotaro Hayashi
掲載誌:
The Journal of Physical Chemistry Letters
公開日:
2024年4月3日
DOI:
https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.3c03401
【研究に関するお問い合わせ先】
高知工科大学 理工学群 林 正太郎
TEL.0887-57-2516
E-mail:hayashi.shotaro@kochi-tech.ac.jp
【広報に関するお問い合わせ先】
高知工科大学 広報課
TEL. 0887-53-1080
E-mail:kouhou@ml.kochi-tech.ac.jp
出典:
https://www.kochi-tech.ac.jp/disclosure/img/994ec233d154a5d9048c143304fe1ab6_3.pdf
ご参考:
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