(レーザー関連)中央大学他/光で動くプラスチックの多彩な変形を実現

~二光子吸収プロセスによる高分子材料の精密駆動に成功~

■概要

 中央大学研究開発機構 機構准教授 宇部 達らの研究グループは、「光で変形するプラスチック(光運動材料)」の駆動方式として二光子吸収注1)プロセスを適用し、変形の三次元化に成功しました。従来の光運動材料では、試料表面近傍で光吸収が起こるため、二次元平面でのみ光吸収およびそれに続く変形・運動を選択的に誘起できましたが、二光子吸収を適用することにより試料中の任意の深さ位置で変形を選択的に引き起こすことに成功しました。本方式により、より多彩な変形・運動を実現しました。
 本研究の成果は、光運動材料の応用可能性を拡げるものであり、柔らかい材料から成るソフトロボットの開発やロボットの小型・軽量化に大きく貢献すると期待できます。

【研究者】

宇部 達: 中央大学研究開発機構 機構准教授
佐々木 翔太: 中央大学大学院理工学研究科 学生(当時)
片山 建二: 中央大学理工学部 教授(応用化学科)
五月女 光: 大阪大学基礎工学部 助教
水谷 瞭太: 関西学院大学大学院理工学研究科 学生(当時)
鎌田 賢司: 産業技術総合研究所 上級主任研究員
宮坂 博: 大阪大学基礎工学部 教授(当時)
池田 富樹: 中央大学研究開発機構 機構教授

【発表(雑誌・学会)】

【出版社】
Springer Nature

【雑誌名】
Nature Communications

【論文タイトル】
Spatially Selective Actuation of Liquid-Crystalline Polymer Films through Two-Photon Absorption Processes
(二光子吸収を用いた液晶高分子フィルムの空間選択的光駆動)

【著者】
Toru Ube (中央大), Shota Sasaki (中央大), Kenji Katayama (中央大), Hikaru Sotome (大阪大), Hiroshi Miyasaka (大阪大), Ryota Mizutani (関西学院大), Kenji Kamada (産総研), Tomiki Ikeda (中央大)

【オンライン掲載日】
2024年11月7日(オープンアクセス,どなたでも自由にご覧いただけます)
(DOI: 10.1038/s41467-024-53682-8)

【研究内容】

1.背景
 プラスチックやゴムなどの高分子材料は軽量かつ柔軟であり、日常生活でも広く用いられています。近年、光・電気・熱等の外部刺激に応答して変形する高分子材料が盛んに研究されており、人に優しい柔らかい材料で作られたソフトロボット等への応用が期待されています。特に、光に応答して変形する材料(光運動材料)は配線が不要であり、ロボットの小型化に貢献できるものと見込まれています。
 アゾベンゼンを有する架橋高分子は、典型的な光運動材料として研究されてきました。アゾベンゼンは、光照射により分子形状が変化します。通常は棒状のトランス体が安定ですが、紫外光を照射すると、アゾベンゼンは光を吸収した後、折れ曲がったシス体に変化します。また、架橋高分子は、多数の分子が網目状に繋がったものです。網目の中にアゾベンゼンを組み込むと、トランス体からシス体への分子形状変化により網目が変形します。この網目の変形により、材料の変形が引き起こされます。その後、可視光を照射するとシス体がトランス体に戻り、材料形状も復元します。
 光運動材料がどのように変形するかは、アゾベンゼンの分子形状変化が試料中のどの位置で起こるかによって決まります。アゾベンゼンは、紫外光を効率よく吸収するため、フィルム状の光運動材料に紫外光を照射すると、試料の表面近傍において紫外光が吸収されます。そのため、試料表面においてトランス体からシス体への分子形状変化と、網目の収縮が起こります。結果として、フィルムは入射光に向かって屈曲することになります(図1)。

図1 従来の光運動材料の変形メカニズム

 従来の光運動材料では、上述のように試料表面近傍において光吸収や変形が起こります。もし、試料の表面だけではなく、任意の位置において局所的な変形を引き起こすことができれば、より自由度の高い、多彩な変形の発現が期待できます。二光子吸収は、光子の密度が高いときに生じ得る現象であり、これを適用することにより光の焦点近傍で選択的に光吸収を起こすことができます。従って、光運動材料に二光子吸収を適用できれば、試料中の任意の位置で変形を引き起こすことが可能になります。

2.研究内容と成果

 本研究では、二光子吸収分子を架橋高分子に組み込むことにより光運動材料を作製しました。二光子吸収分子として、アゾベンゼンの類似体であるアゾトランを用いました。まず、アゾトランの二光子吸収特性を評価したところ、フェムト秒レーザー注2)照射下において、良好な二光子吸収を示すことが明らかになりました。また、二光子吸収後にトランス体からシス体への分子形状変化も起こることが分かりました。
 アゾトランを有する架橋高分子のフィルムに、フェムト秒レーザーを集光して照射すると、照射部位においてフィルムが折れ曲がるように変形しました。この際の照射スポットのサイズは50 μm以下であり、極めて微小な領域において局所的な変形が起こることが明らかになりました。また、レーザーの焦点位置を変化させることにより、屈曲方向を制御することができました。レーザーの入射側から見て、フィルムの奥側に集光すると奥側に屈曲し、手前側に集光すると手前側に屈曲しました。さらに、長方形のフィルムに対して、長辺に沿ってレーザーの焦点位置を動かしながら照射すると、フィルムの片方の長辺が収縮することにより、フィルムが螺旋状に変形しました(図2)。以上のように、二光子吸収プロセスの適用により試料中の任意の位置で変形を引き起こすことが可能になり、光照射による精密かつ多彩な運動を実現しました。

図2 二光子吸収プロセスを利用した光運動材料の駆動

3.今後の展開
 本研究は、光運動材料の駆動の精密さや多彩さを格段に向上させるものであり、ロボット分野等への応用が見込まれます。特に、二光子吸収プロセスにより微小な材料においても精密な駆動が可能になるため、マイクロロボットと呼ばれる、極めて小さいロボットとしての利用が期待できます。また、材料形状をカメラで取り込みつつ、レーザー照射位置をコンピューターで制御することにより、駆動のさらなる精密化を図ることができます。今後、ロボット分野や情報分野等との連携を深めることにより、光運動材料の実用化に向けた取り組みを推進したいと考えています。

●本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 15H01095、17H05271(池田富樹)、24K08516(宇部達)、26107002(宮坂博)、26107004、23K04701(鎌田賢司)の助成を受けたものです。

【お問い合わせ先】 
<研究に関すること>
宇部 達 (ウベ トオル)
中央大学研究開発機構 機構准教授
TEL: 03-3817-7361
E-mail: ube[アット]tamacc.chuo-u.ac.jp

<広報に関すること>
中央大学 研究支援室
TEL 03-3817-7423および1675,FAX 03-3817-1677
E-mail: kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp

※[アット]を「@」に変換して送信してください。

【用語解説】

注1)二光子吸収
1分子が2個の光子を同時に吸収する現象であり、光子密度が極めて高い場合に起こり得る。二光子吸収が起こる確率は光強度に大きく依存するため、焦点近傍のみにおいて光吸収および光反応を選択的に引き起こすことが可能になる。

注2)フェムト秒レーザー
パルス幅が数フェムト秒から数100フェムト秒であるレーザー光源。光子密度が非常に高くなるが、熱による試料の損傷を抑えることが可能である。

出典:
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2024/11/77254/

ご参考:
(株)光響が提供する製品・サービス情報:
フェムト秒レーザー(光源から産業用加工機まで/製品ページ)

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