晴天乱気流とは、雲一つない晴天化で起こる乱気流で、ジェット気流周辺や山脈周辺で発生することが知られている。通常の乱気流が雲中の1mm以下の水滴により引き起こされるのに対し、1/1000mm以下の塵を原因としている為、航空機搭載の気象レーダーで検知することが出来ず、予測不可能な状況で巻き込まれることが多い。
図1
*実証試験に使用される777型機
風向きや風速が急激に変化する為、揚力が不安定となり機体が大きく揺れる、或いは乱高下することになり、航空機事故の大きな要因の一つにもなっている。
過去には、1966年に英国海外航空(BOAC)ボーイング707が富士山付近で晴天乱気流に巻き込まれ空中分解。乗員乗客全員が犠牲となっている。1977年にはユナイテッド航空826便が乱気流により乱高下し、シートベルトを着用していなかった乗客のうち1名が死亡している。また、通常の航空機よりも頑丈なはずのB52型戦略爆撃機ですら、乱気流によって垂直尾翼を失う、という事故も起こっている。死者や負傷者を出さないまでも、晴天乱気流による事故は相次いでおり、日米共に増加傾向にある。日本国内ではここ10年の航空機事故原因の半数以上を占めているという。
このような状況に対し、JAXA (宇宙航空研究開発機構)と米航空機メーカー大手のボーイングが、晴天乱気流を検知するシステムの実証実験を行うことを発表した。既存の気象レーダーでは捉えることが出来なかった大気中の1/1000mmの塵にレーザー光を照射し、その反射によって晴天乱気流を検知する、というものだ。
図2
このシステムは光アンテナ、光受信装置、信号処理装置、冷却装置のユニットとなっており、重量83.7kg。平均17.5km先の晴天乱気流の検知が可能とされている。この17.5kmは航空機が約70秒間で進む距離に相当する。70秒あれば、乗客に対しシートベルトを締めるよう注意を促し、機内サービス中の客室乗務員がサービスを中断して着席する時間も十分に確保できると考えられている。これにより、晴天乱気流による負傷者を6割以上減らす効果があると試算されている。
JAXAとボーイングは2010年から共同開発を開始しており、2017年まではJAXAが主体となって研究を進め、2016年12月から2017年2月までの間に、19回の飛行試験を実施している。2018年以降はボーイング等の航空機機体メーカーが主体となって機体への標準化を進めて行く構えだ。飛行中の環境性能を高める「ボーイング・エコ・デモンストレーター・プログラム」の一環として、航空貨物会社フェデックス・エクスプレス(FDX/FX)の777型機にシステムを搭載して、飛行実証試験を行う予定だ。2023年からは国土交通省航空局、米国連邦航空局による規制化も目指している。実証実験は2018年3月から4月にかけて米国で行われる予定だ。
更に、この「晴天乱気流検知システム」の開発に伴い、JAXAは検知した乱気流情報と航空機の自動姿勢制御装置を組み合わせ、乱気流による機体の揺れを抑制する「機体動揺低減技術」の開発にも着手しており、これらのシステムにより、乱気流による航空機事故の半減を目標に掲げている。
図3
参考
*JAXA
http://www.jaxa.jp/press/2017/08/20170802_safeavio_j.html(図1)http://www.aero.jaxa.jp/research/star/safeavio/(図3)
*https://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/05/14/20170514ddm001010065000p/9.jpg?1(図2)
*YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/science/20170803-OYT1T50075.html
*Aviation Wire
http://www.aviationwire.jp/archives/126146
「執筆者:株式会社光響 緒方」