2022年7月29日
東北大学未来科学技術共同研究センター
株式会社XMAT
~老朽化したインフラ点検の効率化に期待~
【発表のポイント】
- 従来の電磁波による埋設物位置の推定は、地表面の湿潤状態や埋設物材質に影響を受けるため精度に課題があり、また反射応答しない環境への適用は困難であった。
- レーザースキャンで3D点群情報を取得することにより拡張現実情報としての表示が実現し、効果的な埋設物位置情報の把握が可能となった。
- 本技術開発により埋設物の伴う修繕工事の効率化が一段と進むことが期待できる。また、インフラマネジメントの応用や展開にも期待できる。
【概要】
経年劣化する埋設物の敷設替え需要が増大するなか、水道や下水道、送電線の埋設管などの埋設物損傷事故により住民生活に支障が生じるケースが全国各地で発生しています。事故要因の多くが正確な埋設位置が把握できないことがあげられています。
東北大学未来科学技術共同研究センターの吉川彰教授・大橋雄二准教授らのグループは、東北大発ベンチャーの株式会社XMAT(仙台市)の面政也代表取締役らとともに、3D測量技術と拡張現実を組み合せて活用することにより、埋設物の精度の高い可視化技術の開発に成功しました。
従来は電磁波の反射強度により埋設物の位置を推定しておりましたが、地表面の湿潤状態や埋設物の品質に影響を受け精度に課題がありました。また、電磁波の応答しない環境への適用が困難でした。一方、拡張現実技術を用いた可視化技術は、設計段階での空間位置と施工時との比較で出来形管理をする用途として開発されているものの、施工後の埋設物へは適用されていません。これに対して本技術は、レーザースキャンで埋設時に埋設物の位置を3D点群情報として測定・把握して拡張現実空間上に座標変換し、ウェアラブルグラスを用いて 3D点群データを表示することで、地中に埋まっている埋設物をあたかも透視しているかのような臨場感を得ることが可能になります。埋設物の正確な位置情報が視覚的に把握できるため、埋設物の維持管理作業の効率化や事故軽減に大きく貢献できます。また建設工事および構造物のアセットマネジメントのDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進に貢献することが期待されます。
【詳細な説明】
埋設物調査の従来技術としては、以下の図1のように、電磁波レーダー法により地表面の位置から埋設物の位置を推定しておりました。電磁波レーダー法は、電磁波をアンテナから地表面に向けて放射し、その電磁波が土と電気的性質の異なる物質、例えば、埋設管や空洞等との境界面で反射され、再び地表面に出て受信アンテナに受信され、この送信から受信に到るまでの時間から、反射物体までの距離を推定する手法です。電磁波レーダー法の特徴として、平面的な位置は、距離計を内蔵した装置を移動させることにより、位置情報を得ることができますが、地表面の湿潤状態や埋設管の品質等に影響を受けやすく、精度が課題でした。さらに、電磁波の応答しない環境への適用が困難でした。
また、拡張現実技術を用いた埋設物の可視化の開発例はありましたが、以下の図2のように、3D CAD等で作成した3Dモデルを投影し、当初設計していた3Dモデルと実際に施工したものとの比較で出来形管理をする用途でした。建設工事においては、「現場合わせ」といった言葉が存在するように、当初の設計通り寸分の狂いなく完全に施工を再現するというのは困難です。そのため、従来の拡張現実を用いた可視化技術は、施工された情報そのものを可視化するものではありませんでした。
上記に対し、今回開発した技術は以下の図3(次頁)のように、新規埋設管敷設工事作業中に予め3Dレーザースキャナやフォトグラメトリの活用により、敷設された埋設管情報を3D点群情報として取得します。拡張現実情報としてウェアラブルグラスに3D点群情報を投影する場合、3D点群取得時とウェアラブルグラス上での座標系が異なるため、座標変換が必要となります。そのため、ウェアラブルグラスにおける基準座標として認知するためのQRコードを予め用意しておき、敷設された埋設管と同時に3次元測量するといった工夫が必要となります。(※)
※ウェアラブルグラス上のカメラからQRコードを検出すると、QRコードを基準座標(x,y,z)=(0,0,0)として実空間上に座標系を確立することができ、予め拡張現実空間に割り当てられた3D点群情報をホログラムとしてレンダリングすることで、実空間上にあたかも埋設物を透視しているかのような臨場感が得られる。
本技術開発のデモンストレーションに関する画像は以下の図5・図6の通りです。テントの中に格納された設備をテントの外から表示するデモンストレーションです。予め基準位置決定用マーカー(QRコード)を設定し、テント内部の設備をレーザースキャナで3D点群情報として取得し、ウェアラブルグラス上で投影しました。
今回の開発技術は新規埋設管敷設施した後のフェーズに効果を発揮します。埋設管交換工事の例では、掘削の際に誤って埋設管を破壊させるリスクが低減し、掘削範囲を最小限にすることが可能となり、掘削・埋戻・廃棄土量を最小限に抑制が可能となる等の便益を得ることが可能となります。
また、その他の活用事例として、コンクリートのコア抜き調査の場合、鉄筋位置を浮かび上がらせることで、既存の鉄筋を損傷させること無くコアを抜くことが可能となります。今後、上記の様な埋設物に係る施工事例が増えることで、省エネルギー・コスト削減・廃棄物削減に寄与し、SDGsへの貢献が期待できます。今後は、本開発技術が国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)へ登録されるよう実績を積み重ね、実用化を目指します。
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
・東北大学未来科学技術共同研究センター
大橋准教授
電話 022-215-2214
E-mail:yuji.ohashi.b8@tohoku.ac.jp
・株式会社 XMAT
電話 022-765-6109
E-mail info@xmatcorp.com
(取材に関すること)
・東北大学未来科学技術共同研究センター
吉川研究室(大橋)
電話 022-215-2214
E-mail:yl-sec-imr@grp.tohoku.ac.jp
・株式会社XMAT
電話 022-765-6109
E-mail:info@xmatcorp.com
出典:
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20220729_01web_laser.pdf
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