(レーザー関連)名古屋大学他/金属 3D プリンタが生み出すアルミニウムの新機能

~汎用元素の組み合わせで優れた高温強度を実現~

【本研究のポイント】

  • 新たに設計した 2.5% Feと2% Mnを含むアルミニウム(Al-Fe-Mn合金)粉末は、金属3Dプリンタ注1)の良好な製造性を示した。
  • Al-Fe-Mn合金注2)の3Dプリンタ造形材は、従来のアルミニウムより200°C以上の高温にて遥かに高い強度を示した。
  • 新たに設計したAl-Fe-Mn合金は、金属3Dプリンタを用いて様々な輸送機器に使用 される軽量・耐熱部材への適用が期待される。

【研究概要】
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の王文苑(オウ ブ ンエン) 博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員)、高田尚記 准教授(戦略 的創造研究推進事業 さきがけ研究員)、鈴木飛鳥 助教、小橋眞 教授は、あいち産業科学技術総合センター 加藤正樹 氏(名古屋大学 未来社会創造機構 客員教授) と連携し、金属3Dプリンタ技術のひとつであるレーザ粉末床溶融結合法注3)で造形可能なアルミニウム合金を理論計算に基づき設計しました。その3Dプリンタ造形材が、従来のアルミニウムより遥かに優れた高温強度注4)を示すことを見出しました。
本研究では、金属3Dプリンタ技術が複雑な形の金属部材を造るだけでなく、素材に これまでにない高機能性をもたらすことを示しました。また設計合金は、自動車エンジン用圧縮機の回転体部品など、様々な軽量・耐熱部材への適用が期待されます。
本研究成果は、2023年3月24日付3Dプリンタ技術に関する国際学術誌「Additive Manufacturing」に掲載されました。

【研究背景と内容】
3Dプリンタ(積層造形もしくは付加製造とも呼ばれる)技術のひとつである金属粉末 を用いたレーザ粉末床溶融結合(Laser Powder Bed Fusion:L-PBF)法は、従来製 造法で不可能な三次元複雑形状の部材を製造できます。その3Dプリンタで製造された金属造形体は、レーザ照射(図 1)による超急冷凝固注5)(1秒間に100万度以上の速さで 液体金属が固体になる現象)を通じて造られます。本研究は、金属造形体の材料組織注6)が非常に微細な構造を持つだけでなく、これまでにない非平衡状態であることに着目しています。この金属3Dプリンタによる非平衡状態の創出は、軽量金属材料の代表であるアルミニウム(Al)の性能を飛躍的に向上させるだけでなく、従来の常識とは異なる物性を生み出すことも明らかにしてきました。

これまで、最も一般的な金属元素である鉄(Fe)を含むアルミニウムの金属 3Dプリンタに関する基礎研究を進めてきました。一般に、アルミニウムへのFe元素の添加は素材を脆くし、大気中での劣化を促進するため避けられています。しかしFeを含んだアルミニウムの3Dプリンタ造形体は,平衡状態よりも遥かに高濃度のFe元素を含む非平衡状態で、微細な準安定相注7)を持つため、常温で比較的高い強度を有することを明らかにしてきました。このようなアルミニウムの常識と異なる発見に着想を得て、未踏の物質探索空間であるAlとFe等の遷移金属注8)元素の組み合わせを利用し、3Dプリンタに適用する新たな材料設計原理の構築を目指しています。
本研究では、金属3Dプリンタにおける超急冷凝固を模擬した熱力学計算注9)を用いて、準安定相を安定化させるマンガン(Mn)元素を組み合わせたAl-Fe-Mn合金を設計しました。MnはFeと同じ遷移金属で、アルミニウムにしばしば添加される元素です。高い強 度のアルミニウムは金属3Dプリンタによる製造が困難であることが知られていますが、設計合金は比較的幅広い製造条件で3Dプリントすることができ、優れた製造性を持つことがわかりました。また電子顕微鏡観察から、高濃度のMn 元素が準安定相の内部に存 在し、準安定相を安定化していることがわかりました。設計合金の3D プリンタ造形材は、 従来のアルミニウムより 200°C以上の高温にて遥かに高い降伏強度注10)を示すだけでな く(図2)、世界で開発されているアルミニウムの3Dプリンタ造形体より優れています。この優れた高温強度は、Mn元素による微細な準安定相の安定化に起因すると考えています。

【成果の意義と今後の予定】
本研究成果は、金属3Dプリンタ技術が複雑な形の金属部材を造るだけでなく、素材に高機能・多機能性をもたらすことを示したものです。金属3Dプリンタ技術が生み出す非 平衡状態を利用した材料の開発は、アルミニウムだけでなく、種々の金属に応用可能です。 ここで設計した Al-Fe-Mn 合金は、自動車エンジン用圧縮機の回転体部品など、様々な軽量・耐熱部材への適用が期待されます。今後は、理論計算に基づいて、他の遷移金属元 素との組み合わせを考案し、更に高温強度を高めたアルミニウムの金属3Dプリンタによる製造を目指します。
本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ[未来材料]物質探索空間の拡大による未来材料の創製 『金属3Dプリンタを用いた非平衡組織・準安定相の創出』 、愛知県 知の拠点あいち重点研究プロジェクト(III 期)『積 層造形技術の高度化と先進デザインの融合による高機能部材の創製』、及び 日本学術振 興会特別研究員(王 文苑) 『レーザ3D積層造形技術を活かした新規耐熱アルミニウム 合金の創製』の支援のもとで行われました。

【用語説明】
注 1)金属3Dプリンタ:
コンピュータで制作した3次元データを使って、その形に金属を用いて造形する装置。国際規格 ISO/ASTM 52900 により、3Dプリンタ技術は7つのカテゴリに分類され、 金属に適用可能な手法は4つである。

注 2)合金:
二種以上の金属を混ぜた材料・物質。金属と非金属元素を混ぜた材料も、金属的性質を持つものは合金と呼ばれる場合が多い。

注 3)レーザ粉末床溶融結合法:
英語では、Laser Powder Bed Fusion(L-PBF)と呼ぶ。3次元データに基づいて、一層ずつ金属粉末を積み重ね、これを繰り返して対象物を造形する。具体的には、レーザ(Laser)照射を利用し、数十マイクロメートル厚さの金属粉末層(Powder Bed)を結合(Fusion)させる過程を繰り返し、金属の構造体を製造する技術。

注 4)高温強度:
高い温度における素材の強さ。圧力と同じPa表記。構造用金属材料の場合、金属の溶ける温度(絶対温度)の半分以上を高温と称する場合が多い。

注 5)凝固: 液体が固体になる現象。

注 6)材料組織:
材料を構成する結晶の集合体。結晶の種類、大きさ、分布によって物性は変化する。

注 7)準安定相:
平衡状態では存在しない相。熱力学的に不安定な状態のみ存在できる。

注 8)遷移金属:
周期表で第3族元素から第12族元素の間に存在する元素。遷移元素とも呼ばれる。

注 9)熱力学計算:
多元素・多相の物質および材料の特性を熱力学に基づき定量的に数値解析する手法。

注 10)降伏強度:
材料の塑性変形を起こす前に負荷させることができる最大の応力。アルミニウムの場合、降伏応力に相当する応力は0.2%の塑性ひずみを与えたときの応力(0.2%耐力)が用いられる場合が多い。

【論文情報】
雑誌名:
Additive Manufacturing

論文タイトル:
Design of Al–Fe–Mn alloy for both high-temperature strength and sufficient processability of laser powder bed fusion

著者:
Wenyuan Wang, Naoki Takata, Asuka Suzuki, Makoto Kobashi, Masaki Kato

DOI:10.1016/j.addma.2023.103524

URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860423001379?via%3Dihub

出典:
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload/20230418_engg.pdf

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