『不気味の谷』、という言葉をご存知だろうか。ロボットの姿や仕草を、可愛らしいものやデフォルメされたものから次第に人間に近づけていく途中で陥る、嫌悪感や恐怖感を持たれる姿のことだ。人間に見えるけれども明らかに人間じゃない、という微妙な違和感が嫌悪される原因と見られている。このラインを通り過ぎ、人間そのもの、になると親近感はまた上昇を始める。突然に何の話だ、と思われるかもしれないが、これはコチラで何度かご紹介させて頂いたことのあるロボットに関わる大事な話だ。
そう、ボストンダイナミクス社製の二足歩行人型ロボット『Atluas』のことだ。ご存じない方の為に一応説明しておくと、『Atlas』は頭部のステレオカメラとレーザーセンサーで周囲を認識する人型ロボットだ。ジョギングをしたりバク宙やパルクールをしたり、或いは、激しく妨害されながらも荷物運びの労働を真摯にこなす姿が感動を呼び、ロボット界の世界的アイドルとなっている。他に四足歩行の犬(?)型のような『spot mini』や、車輪付き二足&四足(?)ロボット『Handle』なんかもいて、コチラはコチラである種の人気を集めているロボットたちだ。
この二つに限らず人気者ロボットに共通しているのは、【顔】があやふやなところだ。そうでなければ、ペッパー君のように人型ではあるけれどもデフォルメされた見た目だったり、AIBOのように犬型だったり、『spot mini』に至ってはそもそも顔なのか頭なのか腕なのかすらはっきりしない謎に満ちた形状になっている。『Atlas』にしろ『spot mini』にしろ、産総研のHRP-5Pにしろ、他の最先端ロボットにしろ、開発中に機能最優先の見た目なることは仕方がない。中身の配線やモーターや諸々が丸見えで、人間で言うなら筋繊維むき出しの人体模型状態で多少恥ずかしい姿でもそれは寧ろ当然のことだ。だが、実際に市場に出て多くの人の目に触れる活躍の場を与えられた時に、この色々むき出しのままという姿はあまり良いとは言えない。メカメカしいゴツゴツした姿では、人に安らぎや親密さを感じさせることはなかなか難しいだろう。人どころか犬や猫ですら服を着る時代だ。ロボットにだって服やパンツ、それ以前に柔らかい皮膚やきれいな目、サラサラヘアが与えられるべきだろうし、それを要求する権利があっても良い筈だ。
と、ロボット自身や開発者達が主張したり考えたりしたかどうかは知らないが、ロボットの容姿を人に近づける試みは日本各地、世界各国で行われている。そしてこの度、『Atlas』と『spot mini』の実家となる、かのボストンダイナミクス社のinstagramに、ロボット人化計画の一端と見られる情報がUPされて大いに注目を集めている。
なんだこれ、と言いたくなる弱冠ホラーよりのこの画像は、最先端技術の駆使したロボットの顔面に、シリコンマスクを被せているところだ。「特殊エフェクトの巨匠」クリス・カンズマンのドイツの工房で行われた実験ということなのだが、何というかグニグニと動く柔らかいマスクが、如何にもロボットらしいロボットに被せられていく様子が実にシュール極まりない画像となっている。
作業の様子を動画でご覧になりたい方は以下から。
https://www.instagram.com/p/BoHtwUdHVWJ/?utm_source=ig_web_copy_link
それにしても、どうしてこのマスクを選んだのか。おじさん顔のマスクでなくてはならなかった理由は何なのか、と機会があれば問い質したくなるような光景だ。正直、不気味の谷を越える超えない以前の問題なのではないかという気さえする。ひょっとしたら、顔面だけでなく全身の肌を貼りつけ、パンツをはかせ洋服と靴を身に着けさせたら、親近感の湧く人の良いおじ様風に仕上がるのかもしれないが、この映像だけでは如何ともし難い風情を醸し出している。
被検体となっているロボットはボストンダイナミクス社製ではないが、同社がこの動画をシェアしていることが話題性に拍車をかけているようだ。ボストンダイナミクス社が『Atlas』や『spot mini』に人間や犬(?)に見えるスキンを貼りつける計画を密かに進行中なのかと多くの人が期待しているのかもしれない。その場合、やはり周囲を認識する為のレーザーセンサーは眼球部分に取り付けられるのだろうか。リアルに「目からレーザー」ロボットの誕生となるのか、興味の尽きることはなさそうだ。今後もロボット業界とボストンダイナミクス社の動向に要注目だ。
参考
*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52266744.html
https://robotstart.info/wp-content/uploads/2017/11/b98c1e45df3ac5c772b914236e85be7947330d8796bfc5d598b5e189fab8cca4.png (図1)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/c/c0/Wpdms_fh_uncanny_valley.jpg (Top画像)
執筆者:株式会社光響 緒方