母艦に接近した小型艇が光のロープに引き寄せられて着艦する。或いは宇宙空間を光を使って高速航行する。SFの中では日常的な光景だ。空想世界やSFの世界というのは人間が持つ「こうなったら良いな」という願望が詰め込まれたものではないかと思うのだが、この光/レーザーを使った移動手段や物体移動は単なる願望ではなく実現可能な技術になりつつあるのをご存知だろうか。
「光が物を動かす」ということはそんなに驚くことではない。光学的手法による微小物体の操作理論が最初に提起されたのは1970年代のことだ。今では光ピンセットとして生物学等の研究現場で大いに活用されている。しかし、ここで問題になるのは、動かすことができるのは非常に極小な物に限られている、ということだ。また、現在進められているアルファ・ケンタウリへの訪問計画「ブレイクスル―スターショット」ではソーラーセルを取り付けた宇宙船をレーザーで加速し光速の20%の速度を生み出す技術が開発されているが、その宇宙船のサイズも極々小さく、クレジットカードサイズとも切手サイズとも言われている。
つまり、既存の技術では小さな小さな物しか動かすことができないのだ。空想科学的な技術の実現を希求する人々にとっては、これは非常に残念なことだ。
しかし、やはり技術は進歩する。動かせる大きさが極小サイズからメートルサイズまで一気に跳ね上がる理論が提唱されているのだ。
研究しているのはカリフォルニア工科大学のハリー・アトウォーター教授が率いる研究チーム。彼らは、物体の表面にナノスケールの模様を刻みこみ光で物体を動かす「Self-stabilizing photonic levitation(自己安定光子浮揚)」の理論をネイチャー フォトニクス誌に発表した。この「自己安定光子浮揚」は、物体表面に特定のナノスケールパターンのエッチング加工を施すことで、照射された光が反射して物体の動きが「自己安定化」して、進行方向から外れてしまっても自動的に修正されるようになるという。強力な収束ビームを照射しなくても宇宙空間でメートルサイズの物体を動かすことができ、しかも光源から数百万km離れていても作用するとのことで、宇宙探査等での活用が大いに期待されている。
アトウォーター教授によれば、「実現は遠い道程だが、既に実験段階にある」とのこと。理論的にはロケットに燃料を積み込む必要は無く、地球からのレーザー照射で光速近い速度で宇宙空間を航行できる宇宙船の実現も夢ではないかもしれない。また、ナノサイズの電子回路を迅速に製造できる技術への応用なども考えられているそうだ。
実現されれば人間の宇宙での行動範囲は一気に広がるだろう。火星移住や星間旅行の実現、ひょっとしたら宇宙人との遭遇も夢ではなくなるかもしれない。道程は遠い、とのことだが是非とも実現して欲しい技術であることは間違いない。
参考
*Caltech
https://www.caltech.edu/about/news/levitating-objects-light
*Gigazine
https://gigazine.net/news/20190326-levitating-object-light/
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/110100411/01.jpg?__scale=w:500,h:302&_sh=03c05604e0 (Top画像)
http://switch-box.net/wp-content/uploads/2014/06/wallpaper-satellite-image-02.jpg (図1)
執筆者:株式会社光響 緒方