*超イオン氷を形成させる様子を描いたイメージ図。ダイヤモンドの表面に照射した強力なレーザー光線が衝撃波を発生させ、この衝撃波がサンプルの水中を伝わりながら水を圧縮・加熱する。(ILLUSTRATION BY MILLOT, COPPARI, HAMEL, KRAUSS (LLNL))
夏になるとその存在がありがたくなるのが氷だ。かき氷、氷を入れた冷たい麦茶、素麺やお蕎麦を冷やす氷。蒸し暑い季節を乗り切るための冷たく嬉しい味方だ。
そう、氷は冷たい。冷たいものだ。しかし、長らくそう思い込んできたのは宇宙では地球人だけなのかもしれない。広大な宇宙には、実は熱い氷が存在するのだ。しかも超高温の氷だ。
地球から33光年先にある矮星GJ436を回っている惑星が超高温の氷で出来ているという。この惑星は親星である矮星との距離が近い為、摂氏250℃という高温の星であるにも係わらず、その緊密な質量と凄まじい圧力によって水が個体の形を取り、溶解も蒸発もせずに惑星としての形を保っていると見られている。水の結晶構造は現在のところなんと17種類も確認されている。地球上では有り得ない灼熱の氷も宇宙規模では常識のありふれた物なのかもしれない。
そして、新しい種類と見られる氷をX線でとらえることに成功したと、米ローレンス・リバモア国立研究所が明らかにした。これは「超イオン氷」という伝導性の非常に高い氷だ。「nature」に発表された論文によると、100万~400万気圧という高圧下と太陽の表面温度の半分ほどの高温の環境下で存在すると氷だという。勿論、地球の自然界には通常存在しえない氷だ。もう冷たさをイメージさせる「氷」ではなく、「水の固体」と呼ぶ方が正しいような気さえしてくる。
2018年、研究者たちは、高圧力を印加する装置ダイヤモンドアンビルという装置とレーザーによる衝撃波を使って水を圧縮し、数ナノ秒というごく僅かな間だけ水を氷にすることに成功した。この時の導電率は数百倍という数値になっており、「超イオン氷」であることを証明していた。
*実験の様子。プレート上に水サンプルを置き、強力なレーザー光線を照射する。さらなるレーザー光線の照射により鉄箔からX線フラッシュが発生し、圧縮・加熱された水の層のスナップ写真を撮影できる。(PHOTOGRAPH BY MILLOT, COPPARI, KOWALUK (LLNL))
その後、6基の大型レーザーを使って連続的に撃波を発生させ、薄い水の層に数百万気圧の高圧と1700~2700℃の高温を与えて氷にし、X線を照射して測定したところ、酸素原子が結晶構造をとっていることも明らかになっている。酸素原子は高密度の面心立方格子の配置になっており、氷の結晶がこのような構造になっていることが発見されたのは初めてのことだ。
図2:面心立方格子構造の模式図
研究者たちはこの結晶を18種類目の水の結晶構造として「氷XVIII」と呼ぶことを提案している。この成果は、地球と同じ太陽系惑星の海王星、天王星の鶏鳴に役立つことが期待されている。
左)図3:海王星 右)図4:天王星
両星ともアイスジャイアントと呼ばれる氷惑星だ。約65%が水で、中心部は地球とコアやマントルの様に層状になっているのではないかと考えられている。つまり、この2つの氷惑星は超イオン氷が層になってマントルのような動きをしている可能性を、今回の実験結果は示しているのだ。
海王星の自転軸は大きく傾いて両極と赤道の中間あたりに磁極があり、天王星に至っては南の磁極が北半球にあるという奇妙さなのだが、この風変わりな磁場の説明も付くようになるかもしれない。また、海王星と天王星の超イオン氷層の上に更に導電性の高い液体が層をなしている可能性も指摘されており、両星の磁場がそこで発生し、その位置の浅さが不安定で奇妙な磁場の原因になっているのかもしれない。
身近にありすぎてその不可思議さに思い至る機会が少ない水や氷だが、18種類目の結晶構造発見の機会にその神秘に目を向けてみるというのも良いのではないだろうか。
*NATIONAL GEOGRAPHIC
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/051000268/
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/051000268/ph_thumb.jpeg?__scale=w:500,h:500&_sh=0be07c0430 (Top画像)
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/051000268/02.jpg?__scale=w:500,h:363&_sh=0840800120 (図1)
*地球と宇宙の科学
http://cosmos.hix05.com/05star/star01.hot-ice.html
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7b/Cubique_a_faces_centrees_A1.svg/1280px-Cubique_a_faces_centrees_A1.svg.png (図2)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3d/Uranus2.jpg/250px-Uranus2.jpg (図4)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/56/Neptune_Full.jpg/250px-Neptune_Full.jpg (図3)
執筆者:株式会社光響 緒方