目、鼻、口、頬、眉、耳。人間の顔のパーツというものは、世界各国津々浦々何処に行っても何時の時代も変わりなく、人々の関心事の一定の部分を占めている。造作の美醜は当然として、やれあの人は唇が薄いから薄情だ、だの、あの人は福耳だからお金持ちだ、だの顔に纏わる迷信や言い伝えも枚挙に暇がない。それ程までに人は自分の、或いは他人の顔に興味を持っているのだ。
中でも殊更に気にするのは、「目」ではないだろうか。
図1
「目は口ほどに物を言う」というくらいだから感情が現れやすい部分、ということもあるだろうが、今回それは脇へ除けておくことにしよう。日本人なら大部分が黒か茶色、世界を見渡せば多種多様。そう、色の話である。
人間の目の色は、ブラウン(brown/濃褐色)、ヘーゼル(hazel/淡褐色)、アンバー(amber/琥珀)、グリーン(green/緑色)、グレー(gray/灰色)、ブルー(blue/青色)、
バイオレット(violet/青紫色)、レッド(red/赤色)、に大まかに分類されるが、光の当たり加減によって変わることもある為、厳密には定めないということになっている。パスポートの目の色の記載も大体この中から選ばれている。
さて、先程も書いたように、日本人の多くがこの中のブラウン(brown/濃褐色)の目を持っているわけなのだが、華やかな色の目に生まれたかったな、と思っている人もいるようだ。勿論、これは日本人に限らずどの国でもそういう人たちはいる。周囲に鮮やかな瞳をしている人が多いだけに、寧ろ欧米の方が多いのかもしれない。金髪碧眼は美男美女の代名詞。憧れの色なのだ。しかしながら、そう思ったところで目の色というものは生まれつきのもので、病気や怪我で変色でもしない限りは変わらない。どうしてもカラフルな色の瞳が欲しい人はカラーコンタクトを入れるくらいしか方法が無かった。
しかし、その願いがかなうかもしれない技術が確立されつつある。というより既に現実に存在する、とすればどうだろうか。
アメリカ・カリフォルニアに拠点を置く「ストローマ・メディカル社」が開発したレーザー手術は、レーザーを目に照射することで、茶色の虹彩を青色に変化させる、というのだ。しかも、新しい青色は永遠に変わらない。
人間の目の色はメラニン色素の量で決定されているわけだが、そのメラニン色素を眼球の虹彩前層からレーザーで取り除く。除去された色素は異物を排除しようとする体の働きに従って、少しずつ体外に排出され、約二週間前後で茶色の瞳は次第に青色へと変化するのだそうだ。
シミやソバカスをレーザーによって消す美容技術があるが、その応用とでもいえば良いのだろうか。だが、場所が目であるだけにどうしても気になるのは安全性だ。「ストローマ・メディカル社」主任技師で会長でもあるグレッグ・ホーマー博士は「私たちは、どんな瞳の色でもブルーに変えられます。20歳から50歳までの患者さんに施術しています。コンピュータ制御されたレーザーで、椅子に腰かけたまま、ほんの20秒程度で済む手術なのです」と、安全性と簡易さを強調している。
勿論、当然のようにこれに対する反対意見もあり、ロンドン眼科病院のザジャ・カーン医師は、「正常な涙道をつまらせる可能性がある」と懸念を示し、またアメリカ国内の専門家も「この手術を受けると眼圧が高まり、緑内障を発症する危険性がある」とその危険性を指摘しており、現在のところアメリカでは医療行為としては認められてはいない。
レーザーを目に照射する、ということでレーシック手術を思い浮かべるかもしれないが、レーシック手術は目の表面にだけレーザーを当てるのに対し、この新しい技術は、眼球の内部まで当てるもので、多かれ少なかれ目へのダメージは避けられない、という意見もある。
ストローマメディカル社では、既に臨床試験を実施しており、最終的にはアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を得る予定だと言うが、目の手術は直後ではなく、時間の経過と共に影響が現れる。新しい技術であるだけに、現段階で問題が無くとも先々にどうなるか、というのはまだまだ未知数であるのが現実だ。
施術を受けるのは完全に個人の自由だが、先々の危険を考えると、軽々しく受けるのは少しまだ怖いような気はする。それにしても、そこまでしても青い目を手に入れたい、という人々が確かにいるのだということに驚かされる。
最後に、もしこの技術の安全性が確約されたとして、「受けてみたいけどアジア人顔に青い目は変」、と二の足を踏んでしまいそうな方に、世界の目の色の話を。
カラフルな目は欧米人の専売特許と思われがちだが、インドや中東にも美しい青や緑の目を持つ人々はいる。アフガニスタンの部族であるパシュトゥーン人は現地語で『緑の目の人々』と呼ばれているし、モンゴルにも青い目や琥珀色の目の人々がいる。アジア人の顔で、青い目の人も確かにいるのだ、ということは一応頭の隅に置いておいても良いだろう。
(モンゴル・ガザフ族の鷹匠 NATIONAL GEOGRAPHIC)
人間の目の色で最も多いのは茶色である。ストローマ・メディカルの施術によって得られる青い目は、全人口の約17%。更に少ない緑色や紫色の目は、僅かに2%程度しかいない。赤色の目は重度のアルビノの人に現れる。虹彩にメラニン色素が無い為、血の赤が透けている状態だ。左右の目の色が異なる虹彩異色症は0.001%程だという。
生まれ持ったものが一番良い、とはいえ、美への欲求や追及は人の性。これからも技術が進めば今度は、自由に目の色を変えられる、というような日が来るのかもしれない。
参考
CNN.co.JP
http://www.cnn.co.jp/fringe/35061340.html(図1)
「執筆者:株式会社光響 緒方」