アメリカ陸軍が約40年ぶりに新型戦車の開発に着手する見通しが出て来た。
現在稼働中のM1エイブラムス、M2ブラッドレーは共に1980年代に正式採用となった古参だ。M1は最高の戦車と名高かったが、やはり、時代の流れに勝つのは難しかったようだ。
図1
*M1エイブラムス
戦車の装甲というものは、総じて厚い。第二次大戦期の車両は特にそれが顕著だ。これは、鉄の塊で出来た砲弾を高速で打ち込んで装甲を貫通させ、破裂した破片で戦車内を破壊する(ドイツ・対戦車擲弾発射器パンツァーファウスト等が有名)、という攻撃方法に対抗したものだったわけだが、その後、細い金属棒を撃ち込み、発する高熱で装甲を溶かして貫通させるAPDS弾やRPG系ロケットランチャーで使用されるHEAT弾の開発に伴い、装甲の厚さによる防御には限界が出てきていた。これらを今まで通りの方法で防ごうとすれば、戦車は装甲の重みで身動きの取れないただの鉄の箱となってしまう。
対抗策として、前出のM1や、日本の90式、ドイツのレオポルド等では熱に強いセラミックや、薄い板を空間を空けて重ねた特殊装甲が採用されてきたが、それでも車体重量は重くならざるを得ない。実際、M1は10t増しの70t、M2は導入初期の25tから40tにまで重くなっており、更に45tモデルも提案されている。
そこで、イスラエルやロシアが開発を進めたのがアクティブ防護システムだ。
イスラエルは1980年代に開発した爆発反応装甲を手始めに、積極的な防護システムの開発を進め、レーダーで砲弾を探知し、散弾で迎撃する「トロフィー」システムを開発。
ロシアもレーダーで探知した砲弾を発射体を車体斜め上に飛ばし、EFP弾を発射して迎撃する「アフガニト」というアクティブ防護システムを開発し、新型戦車T14に装備している。
図2
*ロシア新型戦車T14
米軍の新型戦車もこれに倣う形で、電子ジャマー、ミニミサイルで防護を固める方向に進むと見られている。また、自動砲塔導入により搭乗員数を減らすことも考えられている。
同時に小型化・軽量化も進める方針で、空挺部隊用の空中投下可能な軽量戦車を開発するのではないか、との見方も出ている。
攻撃に関しても、「運動エネルギーに火薬を使う方法は5世紀に渡って使い続けられている」として、新しい選択肢への転換を示唆した。
レーザー兵器に関しては、米軍は既に多くの実証実験を重ねており、AC130ガンシップに150kW級レーザー砲を搭載し、敵地上の車両に走行不可能なダメージを与えることも可能にしている。課題となっていた発電設備のサイズも、レイセオン社が増加燃料タンクサイズまで小型化に成功し、AH64アパッチへの搭載を実現している為、戦車への搭載も大きな障害とはならないと考えられる。更なる小型化が必要とされてはいるが、実現まで多くの時間はかからないだろうとの見通しだ。
また、海軍がBAEシステムズと開発しているレールガンの導入も検討され、既に行われた発射実験では秒速2.7kmの発射に成功したと発表されている。
とはいえ、車体の軽量化実現の為の新素材の開発は、今のところ目覚ましい成果は聞こえてこず、時間を要するのではないかとみられている。
小型化と主要火器の変更、アクティブ防護システムの構築が達成されれば、現在常識だと感じている地上戦の様相が一変する可能性もある。対戦車攻撃機をレーザーやレールガンが撃破、という映画のような光景を見る日は、それほど遠くは無いのかもしれない。
参考
*http://interestyou.info/img/iraqi_tank_breaches_obstacle_150322-a-bx700-054.jpg(図1)
*http://file.moematome.blog.shinobi.jp/Img/1431414964/(図2)
*産経WEST 軍事ワールド
http://www.sankei.com/west/news/170815/wst1708150006-n1.html
*航空宇宙ビジネス短信・T2:
https://aviation-space-business.blogspot.jp/2017/07/blog-post_31.html
「執筆者:株式会社光響 緒方」