城には石垣が付きものだ。
日本国内では古墳時代に既に石垣の原型と思われる墳丘表面を石で葺く構造が見られており、歴史的にも相当に古くから存在していたことが確認されている。
図1
*姫路城
現在、私たちがイメージする石垣の先駆と言われているのは、滋賀県の観音寺城で16世紀中期のことだ。この石垣を築いたのが穴太衆。安土城や竹田城、金沢城、大阪城(江戸幕府建造)、彦根城の石垣を築いたことで名を馳せていた。
コンクリートとの強度比較実験では遥かに高い強度を示し(京都大学大学院による)、堅牢であることが実証されている。
穴太積に限らず、石垣と言うのは堅牢なものだが、それでも崩れることはある。2016年4月、熊本地震によって石垣の3割と城の一部が崩落した熊本城の姿は記憶に新しいかと思う。
地震以外でも、内側からの圧力による石垣の膨張「孕み」による破損が問題となっており、原因としては、石垣付近に植えられた樹木の根、経年による劣化や変形が挙げられる。また、補強の為に隙間に流し込んだモルタルにより、雨水の排水が妨げられることも原因の一つとされている。
実際に石垣が崩落してしまった場合、完全に元の状態に復元することは困難を極める。衝撃で石が割れてしまうという理由もあるが、絶妙なバランスで積み上げられて石を、それぞれ元の場所に戻すことが非常に難しいのだ。
もし、その正確さを追求しようとするならば、必要になるのは、崩落する前の石垣の詳細なデータだ。その為、各地で「石垣カルテ」の存在が重要視され始めている。
「石垣カルテ」は読んで字の如く、石垣の詳細を記したカルテだ。「石垣台帳とも言う。石の積み方や傾き、石の種類などを事細かに記録し、破損時や保全作業の際に利用するのだ。
石垣構築や修理の記録、積み方、石材とその特徴、抜け、割れ、孕みのような危険箇所等、現状の詳細な情報を記録した「石垣帳票」と、二次元デジタル写真計測や、三次元レーザー計測による石垣表面の三次元形状解析データ等によって、石垣カルテは作成される。
図2
*三次元レーザー計測によるコンター図
図3
*レーザー計測の様子
三次元レーザー計測は100m離れて地点からでも計測でき、手前に堀がある場合でも問題なく計測できる。高速かつ精密に表面の形状を把握できると共に、取得したデータを基に、鳥瞰図、立面画像、コンター図の作成も可能だ。
図4
*輪郭立面図
また、二次元デジタル写真計測と合わせて使用することで、より詳細な現状のデータ取得が可能となっている。
図5
*デジタル写真計測による輪郭立面画像と輪郭立面図の合成
既に石垣カルテの作成を実施している自治体もあり、姫路城は2007年実施。竹田城は2015年、松本城は2016年に実施の検討に入っている。また、木造天守閣復元工事に合わせて、名古屋城でも2017年に作成を決定しているとのことだ。2016年に震災に見舞われた熊本城は、正にその年から石垣カルテの作成に入る予定だったという。熊本城の被害を受けて作成を決定する自治体もあり、広島県の福山城も2017年作成を決定している。
文化財を本来の形状のまま維持管理する、と言うのはなかなかに大変なもので、一旦破損してしまったものを原状復帰させるのは更なる困難を伴う。しかし、大元のデータが詳細かつ健全な状態で残されていれば、その困難は半減するに等しいのではないだろうか。
覆水盆に返らず、壊れてしまってから悔やんでもどうにもならない。それなりのコストも時間もかかるだろうが、城郭を抱える自治体の方には、出来るだけ速やかに「石垣カルテ」作成を検討して頂きたいものだ。
参考
*三井住友建築
http://www.smcon.co.jp/2006/1110882/
http://www.smcon.co.jp/resources/images/2006/imaages/061110_2.jpg(図2)
http://www.smcon.co.jp/wp-content/uploads/2013/03/ishigaki03.jpg(図3)
http://www.smcon.co.jp/resources/images/2006/imaages/061110_4.gif(図4)
http://www.smcon.co.jp/resources/images/2006/imaages/061110_5.jpg(図5)
*Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%9E%A3#cite_note-6
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a0/Himeji_Castle_Keep_Tower_after_restoration_2015.jpg/800px-Himeji_Castle_Keep_Tower_after_restoration_2015.jpg(図1)
「執筆者:株式会社光響 緒方」