レーザーネットワーク方式による世界初の常温量子コンピューター。無償一般公開へ。

次世代コンピューターとして注目を集める量子コンピューターの日本初の国産機の開発に成功したことが11月20日に発表された。NTT、国立情報学研究所、理化学研究所などが開発に携わり、27日からオンラインで無償公開される予定だ。

量子コンピューターは大きく分けて2種類ある。
一つ目は量子デジタル式(チューリングマシン型)と呼ばれるもので、現在使用されているコンピューターと同様に、高い汎用性を持つもので、複数の状態を併せ持つ量子ビットもこのタイプの量子コンピューターで利用される。暗号解読等大きな力を発揮すると見られているのは、このデジタル方式だ。電子的な信号を大量に組み合わせて情報処理を行う為、現在使用されているコンピューターと原理が似ている。

2つ目は、量子アナログ式(量子イジングマシン方式)で、今回発表された量子コンピューター「Quantum Neural Network(QNN)」や、カナダのD-WAVEもこれに当たる。「イジング模型」と呼ばれる格子状のモデルをコンピューターの中に物理的に作り、物質の量子力学的な性質を利用して問題と同じ状況を擬似的に再現し、シミュレーションを行なう形で問いに答える形式となる。量子デジタル式とは異なり高い汎用性があるわけではないが、「組み合わせ最適化問題」の解決に関して高い能力を有している。これは量子デジタル式が苦手とする分野の一つでもあるのだ。

そして、最も注目すべきは、その動作環境だ。D-WAVEが抵抗を最大限に抑制する為に極低温状態(-273度)での量子現象を利用する「アーリーリング方式」を採用しているのに対し、QNNはレーザー照射によって量子現象を発生させる「レーザーネットワーク方式」を採用している。この方式であれば、手間のかかる温度管理は必要なく扱いやすい。QNNは、世界初の常温稼働が可能な量子コンピューターだ。

今回発表された量子コンピューター『QNN』は、全長1kmのループ状の光ファイバーに2000個の光パルスを周回させ、それぞれをFPGAなどを用いて人工的に結合させる。これにより「0」であると同時に「1」である、という量子力学の特殊な物理現象「重ね合わせ」を応用することで超高速の計算を行うことができる。例えば人間2000人分の情報を特定の条件で2つに分類する場合、その組み合わせの数は10の600乗以上となる。これは宇宙空間の観測可能な原子の総数よりも多いわけだが、『QNN』が最適解を導き出すまでに必要な時間は、0.005秒以下。

これはスーパーコンピューターの100倍以上のスピードだ。これに反して、量子コンピューターの消費電力は従来の100分の1だ。大手のIT企業等も巨大なデータセンターの消費電力の節減に頭を悩ませている現状で、QNNの単位時間当たりの消費電力量は1kW程。同程度の計算能力のスーパーコンピューターと比較するとその差は歴然だという。

今後の方針としては、創薬、交通システムの最適化や周波数・電磁波の最適化等への実用化を早期に進めて行くと共に、2018年度末を目途に、現在1kmの光ファイバーを5kmまで伸ばし、2000個の量子ビットを10万個にまで増やす予定だ。10万量子ビットは人間の脳の規模と同等のネットワークになるという。

日本では文部科学省が来年度に32億円、10年規模で300億円超の予算投入を行う方針であり、米国では年間220億円、英国では5年で500億円、EUも10年間で1300億円の投資を打ち出している。
こうした背景と今回の発表を受けて、量子コンピューター関連銘柄は大きく値を上げている。また、連動してAI関連も刺激を受けると見られ、大きく注目されている。QNNは27日から一般公開され、利用者の意見を踏まえながら実用化と更なる発展を目指していく予定だ。

参考
*Stone Washer’s Journal
http://stonewashersjournal.com/2017/03/29/typesofqcomputer/
http://stonewashersjournal.com/wp-content/uploads/2017/03/1703271-768×207.jpg(図1)

*NHK NEWSWEB
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171120/k10011229951000.html

*日経テクノロジー online
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/122200045/112100277/?P=1
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/122200045/112100277/171121QNN0f.jpg (Top画像)

執筆者:株式会社光響  緒方