タイムマシンは過去には戻れない。
これが確定してしまっているとしたら、世界はなかなか煮詰まらない。某青い猫型ロボットとその仲間たちのように、恐竜を見に行ったり10万年前の南極に行ったりしてみたい、というのが現在進行形での子供たちと昔は子供だった現大人の本心ではないだろうか。
さて、世界をつまらなくしてしまいかねないこの現実を打開しようとしてくれる研究者の名前は、ロナルド・マレット氏。米・コネチカット大学物理学部の名誉教授だ。長らくブラックホール研究を専門としてきたが、それはあくまでも仮の姿。彼が本心から取り組んできたのはタイムマシンの製作である、と公表して一躍科学界の注目を集めた人物である。
マレット氏の理論は「素粒子リング・レーザー理論」と呼ばれ、一般相対性理論から導かれる。
強い重力があると時空は曲がり重力レンズ効果によって光も曲がる。逆の作用で曲がった光は周辺の時空を歪める。
光には質量は無いがエネルギーはあるので、そのエネルギーを積み上げていけば時空を歪めることができ、そこに疑似的なブラックホールを形成することで、その境界面に沿って情報をのせた粒子を投入すれば情報を未来から過去へ送信することができるようになる、というのだ。
つまり、強力なレーザー光線をミラーに反射させてループ状にした装置を積み重ねて時空を歪めCTCと呼ばれる「閉じた時間曲線」を作るわけだ。
このタイムマシンでは人間を含めて何かの物質を送信することはできないのだが、最も実現に近いと言われる所以は、今既に存在する技術で作成できる可能性があるということだろう。
しかし、大変残念なことに、このマレット氏考案のタイムマシンでも大昔に遡ることはできない。タイムマシンが完成し起動したその瞬間より前には情報を送ることはできないのだ。行ったら戻れない完全片道切符よりは遥かに良いが、やはり残念極まりない。ここで夢は断たれるのか、と絶望しそうになるが諦めるのはまだ早い。
このタイムマシンは情報しか送れないのではなく、情報を送ることができるのだ。未来から、このタイムマシンが完成し起動したその瞬間まで。
つまり、マレット氏考案のタイムマシンには、今の時代では解決できない問題をクリアした未来からの情報が送られてくる可能性があるのだ。その技術的な情報を利用すれば、予想よりずっと早く完璧に過去にも未来にも行けるタイムマシンを目にすることができるかもしれない。
とは言え、何とも希望的観測に満ちている上に他力本願な話だ、と言われても仕方がない。他の多くの開発中の新技術についてと同じように、この「素粒子リング・レーザー理論」にも反論はある。
ループの中に形成されるブラックホールはあくまでも疑似的なブラックホールであり、本物と同じ特性を持つものが出来るかどうかは現段階では全く分からない。また、レーザーで重力場が作れるかどうか、という点も技術的に克服しなければならない等、課題はまだまだある。
物理学者の意見としても、コロンビア大学のブライアン・グリーン教授のように、「マレット氏のタイムマシンは理論的には可能かもしれないが、実際に我々が住む宇宙で実現させるのは難しい」というのも当然ながらあるのだ。極端な話では、「現在の時点で、未来人がタイムスリップして来ていないのだから、タイムマシンは作れない」などという意見が出たりもしている。
しかし、どんなことでも最初は「やってみなければ分からない」のだ。これまでの技術開発の歴史の中で、無茶無理無謀不可能だ、と大昔の人なら笑い飛ばしたようなものを人間は作り上げてきている。
それに、ほんの少し昔なら本気で「タイムマシンを作る」などと本職の物理学者が言い出したら、正気を疑われるか後ろ指をさされるかしていたはずだ。だからこそマレット氏は、表向きはブラックホール研究を専門としてきたのだ。それが、「タイムマシンを作る」と堂々と発言しても、何ら問題が無いどころか、真剣な議論に発展するくらいには、技術が発展してきているということだろう。
10年、20年先は無理でも、そのもっと先でタイムマシンが完成して、出来立てピカピカのピラミッド見学ツアーなんてものが常識になる日が来るかもしれない。ひょっとしたら、本当に未来からタイムマシン技術の情報が送られて来て、思っているよりも早く実現することも無いとは言い切れない。
『人間が想像できることは、必ず実現可能』と信じて、タイムマシンが出来たら何時代へ行こうかとつらつら考えながら気長に待つのが、昔は子供だった大人の嗜みの一つ、かもしれない。
参考
* 関連記事
レーザーは過去現在未来をつなげるか。人類の夢「タイムマシン」(前編)
*back to the past
https://www.bttp.info/pickup/mallett-timemachine/
https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=651×10000:format=jpg/path/s2ffa90dd17fa3d6e/image/i4ffd3d1b56480dfd/version/1469406071/%E3%83%9E%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%AE%E5%9B%B3.jpg (図1)
*tocana
http://tocana.jp/2015/11/post_7824_entry.html
*タイムトラベル11の理論
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%AB11%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96
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執筆者:株式会社光響 緒方