2020年東京オリンピックを前に体操競技が今、熱を帯びている。と言っても選手たちのことではない。否、選手たちは当然のこと、現在加熱しているのは採点技術に関することだ。
当「おもしろレーザーニュース」でも過去に取り上げさせて頂いているが、富士通が開発を続けてきたレーザーによる体操競技の指導採点システムがいよいよ佳境を迎えている。2015年に東京オリンピック・パラリンピックの公式スポンサーとなった富士通は、体操競技の自動採点技術の開発に着手した。その背景には、体操競技の抱える重大な課題が含まれている。近年、選手の繰り出す技の高度化高速化により、人間が肉眼で正確な採点を行うことが困難になりつつあるのだ。体操は採点競技だ。僅かな点数の差が選手の努力に報いることもあれば、涙を流させることもある。正確且つ公平であるべきなのだが、「後方に体を伸ばしたまま宙返りしつつ4回捻りをいれる」、といった複雑な動きを追い切ることは専門家でもなかなかに難しい。更に短時間での採点も求められる。
ここに登場した富士通に試みに大きな期待が寄せられるのは当然のことだ。3Dレーザーセンサーで瞬時に選手の動きを読み取って、一瞬で技を判別。その完成度を採点化する。既存のモーションキャプチャー技術とは異なり、マーカーを付ける必要はなく、箱型のスピーカのような装置から1秒間に30回のレーザーを選手に向かって照射するだけ。反射して戻ってくる光を計測することで、選手の手足や体の位置を正確に測定し、3Dデータ化するのだ。
レーザー光が計測してくれる箇所は1秒間で230万点にも及ぶ。まさに正確無比のデータを手に入れることが可能となる。収集したデータはリハビリ用に開発された骨格認識ソフトで、人間の骨格、関節の曲がり具合などを認識させ、その後、その動きを技として認識して採点に繋げていくのがAIだ。
AIには技のビッグデータ、つまり男子約800、女子約550の技を全て覚え込ませるのではなく、「一回転」「倒立」「一回ひねり」のように分割して学習させ、その順番や組み合わせで技を認識させるようにした。更に、技の大きさや美しさといった、人間の審判であれば主観的要素も含まれるであろう部分は、角度の大小等で数値化して学習を行った。これを高速で行うことで、自動採点の実現が可能になるのだという。
とは言え、ここで文字にするよりも困難は大きかったと思われる。開発中の話として、選手の体を認識させようとするとAIは体操の器具までも人体の一部だと認識してしまい、あん馬は足、釣り輪は手、と判断してしまうこともあったそうだ。人間ならば「なんでだよ」と思うような認識をAIだからこそしてしまう。結果として、事後処理で消す作業が加えられた。他にも選手が使う滑り止めの炭酸マグネシウム粉末が宙に舞い、レーザー光を反射して誤作動が起こり、正確な計測が出来ない等の問題も発生した。
進展ごとに現れる課題をクリアしつつ、体操競技自動採点システムは10月にドバイで行われる世界選手権で、「採点支援システム」として実用実験されることになっている。より正確な採点は選手の為、明確な採点基準とその視覚化は観客や視聴者の為でもある。完成すれば他の採点競技、例えばフィギュアスケートなんかにも活用することができるだろう。2020年東京五輪での正式採用に向けて、今年が勝負の年となる、とのこと。できればこの晴れの舞台で、日本選手の活躍と共に、この最先端の技術もお披露目して頂きたいものだ。
参考
*日刊スポーツ
https://www.nikkansports.com/olympic/column/edition/news/201807010000519.html
https://www.nikkansports.com/olympic/column/edition/news/img/201807010000519-w500_0.jpg 図1
https://www.nikkansports.com/olympic/column/edition/news/img/201807010000519-w500_1.jpg 図2
執筆者:株式会社光響 緒方