(レーザー光照射による異なる散乱光)非染色・非侵襲・短時間で細菌を判別する光技術

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター先端バイオイメージング研究チームの渡邉朋信チームリーダー、アルノ・ジェルモン研究員、市村垂生上級研究員(研究当時)らの研究チームは、大腸菌にレーザー光を照射したときに散乱する光が、大腸菌が持つ薬剤耐性の違いによって異なる特徴を示すことを明らかにしました。また、この現象を応用し、薬剤耐性大腸菌の種類を非染色・非侵襲・短時間で、しかもほぼ100%の確率で判別する方法を開発しました。本研究成果は、病理診断や環境衛生管理における、正確・迅速な菌種の同定につながると期待できます。

今回、研究チームはそれぞれの薬剤耐性大腸菌の遺伝子発現パターンとラマン散乱光の関係を調べ、特定の遺伝子の発現量と、ラマン散乱光の特徴との強い相関を見いだしました。この結果は、未知の菌に光を照射してそのラマン散乱光を見るだけで菌の種類を判別し、さらにはその菌の遺伝子の発現パターンまで推定できる可能性を示しています。

本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Communications Biology』(7月2日号)に掲載されました。

背景
人類と病気との闘いの歴史において、感染症の克服は最も大きな課題の一つです。細菌の増殖を抑制する抗生物質は、人類がその闘いから得た強力な武器であり、抗生物質の利用によって健康や平均寿命は飛躍的に向上しました。しかし近年、抗生物質が効かない薬剤耐性を獲得した細菌(薬剤耐性菌)の増加が世界中で問題となっています。薬剤耐性菌は、抗生物質にさらされる過酷な環境で進化し、抗生物質を分解する能力などを獲得しました。そして、ある細菌種に対して有効な抗生物質が複数開発されている場合でも、抗生物質ごとに耐性を獲得した細菌も多く存在します。そのため、細菌種を同定しても、どの抗生物質に対して耐性を持つかが分からなければ、治療方針や新しい抗生物質の開発方針を立てることができません。現在、細菌の一般的な薬剤耐性検査では、増殖阻害効果の測定や遺伝子解析を抗生物質ごとに行っており、検査に要する時間やコストが課題となっています。したがって、細菌がどの抗生物質に耐性を持っているのかを、簡素かつ迅速に行う方法が、感染予防や衛生管理の観点から今後重要な技術になると考えられます。

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