「強力なレーザーを手に照射されながら美しい絵を見ている人は、同じ状況で醜い絵を見ている人よりも、苦痛を感じない」らしい。なんのこっちゃ、と感じるかもしれないが、これは大真面目に行われた研究から導き出された結果で、世界的に有名な賞を取った研究でもある。2014年の『イグノーベル賞』。バウリンガルや、逃走して隠れる目覚まし時計も受賞した事のある、【あの】イグノーベル賞だ。
健康的に問題の無い12人の被験者は、まずは絵を見ない状態で、左手に強力なレーザーを照射される。勿論痛い。脳波にもその痛みを表す波形が現れる。次いで、この被験者たちは、美しい絵を見ながら同様にレーザーを照射される。すると、レーザーの威力は同じであるにも拘らず、前帯状皮質のP2波振幅が明らかに抑制されるという結果が現れたという。次に行われた、普通の絵/醜い絵の場合は、苦痛は軽減されないという結果が示された。つまり、美しい絵を鑑賞することで痛みを紛らわせることができ、しかもそれは皮質レベルで調節されていることが証明されたわけだ。
この実験は物理学賞でも生物学賞でもなく芸術賞を獲った研究なのだが、これ、絵画じゃなくても例えば、きれいなお姉さんとかイケメンなお兄さんでも同じ結果になったんじゃないのか、とか、色々言いたくなってしまうのだが、きっとそこが『イグノーベル賞』の『イグノーベル賞』たる所以であり、面白いところなのだろう。
ノーベル賞が、言ってみれば非常にお堅い生真面目極まりない賞だとすれば、『イグノーベル賞』は和みと笑いを追求した賞だ。「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」を理念に1991年創設され、今年で28回目を迎える。歴代の受賞には、「ガスマスクに変形するブラジャー」という画期的製品の発明や「キツツキは頭痛がしないのか」「バッタがスターウォーズを見ている時に興奮することに対して」等の生物的な謎の究明、「バナナの皮は本当に滑りやすいのか」という日常生活の危機回避に関わるものまで、様々だ。正直、何故そのテーマを研究に選んだのか問い質したくなるものもあるが、ノーベル賞とイグノーベル賞、どちらも受賞したオランダ人物理学者のアンドレ・ガイム博士、という方もおられるのでここから有益な研究が生まれるという可能性も大いにあるわけだ。
今年2018年のイグノーベル賞受賞者には日本人受賞者もいる。驚くべきことに、これで12年連続の受賞だ。もはや常連といっても差し支えない。「『座った姿勢で大腸内視鏡検査を行うと苦痛が少ない』ということを、実際に自分一人で椅子に座って大腸内視鏡検査を行って確かめた」という研究で医学教育賞を受賞したのは、昭和伊南総合病院に勤務する堀内朗医師。ひょっとしたらこれから先、内視鏡検査は座って受けるのが主流になるかもしれない。
「学を好むものは学を愛するものには勝てない。学を愛する者は学を楽しむ者には勝てない」と言ったりもするそうだ。好奇心と探究心の赴くままに楽しんで研究を進める姿勢が、いつか偉大な成果を残すのかもしれない。12月のノーベル賞シーズンの前に、歴代イグノーベル賞を調べて楽しんでみるのも学問の秋の過ごし方としてありなのではないだろうか。北里大学医療衛生学部の馬渕清資教授の「バナナの皮は滑る」や、チェコ生命科学大学のヴラスティミル・ハルト氏研究の「犬のトイレの謎」他、牛の糞からバニラの香りの成分を抽出する研究や、足の臭いの原因物質の特定等、興味深い研究が目白押しだ。
最後に、『イグノーベル賞』の世界展が2018年9月22日(土)~11月4日(日)、東京ドームシティで開催される予定だ。興味がおありの方はこちらも要チェックだ。
参考
*カラパイア
http://karapaia.com/archives/52173631.html
*Science Direvt
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053810008001177
*イグノーベル賞の世界展
https://www.tokyo-dome.co.jp/aamo/event/ignobel2018.html
http://livedoor.blogimg.jp/mement_mori_6/imgs/9/a/9ab0b53c.jpg (Top画像右)
https://cdn.4travel.jp/img/tcs/t/album/src/10/82/09/src_10820943.jpg?updated_at=1383633584 (Top画像左)
http://www.cgegg.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/ignobel.jpeg (Top画像)