(レーザー関連)世界初!ハイブリッドドローンに搭載したグリーンレーザースキャナによる長時間の海底地形計測に成功

~効率的に高精細地形を計測可能に~

国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 (以下、港空研)は、株式会社アミューズワンセルフが新たに開発したハイブリッドドローンに搭載したグリーンレーザースキャナを用いることで、効率的に高精細な海底地形を計測できることを実証しました。本実証実験は沖縄県竹富町西表島で行われ、陸上から水深約17m付近までの全長約2.6km、幅1kmの範囲を約4時間で計測し、陸上から浅海域の連続的な地形やサンゴ礁の複雑な地形を取得しました。計測データ(水面と海底の両方を含む)は、平均で約12cm間隔の高密度かつ高さの平均誤差±2cmの高精度な結果となりました。
これまでバッテリー容量の制限からドローンのフライト時間は20分程度と短時間なものでしたが、今回の実証試験では小川精機株式会社が開発したドローン搭載型発電機(レンジエクステンダー)による給電を行うことで、グリーンレーザースキャナを搭載した状態でも1回2時間以上の長時間フライトを実現しています。今回、ハイブリッドドローンを用いることで、グリーンレーザースキャナによる高精度な地形計測の効率性が格段に向上し、沿岸域の詳細な地形情報を広範囲に取得可能であることが実証されました。ハイブリッドドローンに搭載したグリーンレーザースキャナでの長時間の海底地形計測は世界初の試みです。ドローン搭載型のグリーンレーザースキャナによって、これまで船でのアプローチが難しく計測ができなかった砕波帯下の地形やサンゴ礁に特徴的な地形である縁脚縁溝系などが明らかとなり、沿岸地形に関する科学的な発展が大きく期待され、沿岸域の波浪や地形変化予測の精度向上につながることも期待されます。

【背景】
海底地形の計測において、近年、水中透過性の高いグリーンレーザー(波長532nm)によLiDARが注目を集めています。レーザーの発射部とセンサーである受光部からなるグリーンレーザースキャナはこれまで大型のものであり、大型の飛行体(例えばヘリコプター)に搭載していました。浅海域の海底地形計測においては、砕波によって生じた気泡がレーザーの海底への到達を妨げることから、複数回のフライトや高いオーバーラップ率による大量の計測点によって砕波の切れ間から瞬時的に海底を捉えることが必要となりますが、大型の飛行体での計測では、機動力が悪く、コストの面からもそのようなフライトプランを実施することは難しいのが現状でした。
2018年、株式会社アミューズワンセルフは国土交通省革新的河川管理プロジェクト「陸上・水中レーザードローン」のもとで小型かつ軽量のドローン搭載型グリーンレーザースキャナ「TDOT GREEN」を開発し、ドローンの高い機動力で高精細な地形データを取得するシステムを提案しました。その後、河川のみならず、海域での実証へと発展し、港空研とアミューズワンセルフは、砕波帯下の海底地形計測における有用性の検証を連携して進めてきました。
大量の海底地形の点群データを取得できるグリーンレーザースキャナとドローンの有する高い機動力により砕波帯を含めた沿岸域の地形を詳細に取得することができるようになってきた一方、ドローンの飛行時間はバッテリーにより制約を受け、バッテリー交換のために複数回の離発着を繰り返す必要がありました。また、沖に広がるサンゴ礁や遠浅の地形での計測では、計測箇所に飛行するまでにバッテリーを消費してしまうという難点がありました。そこで今回の実証では、広範囲の海底地形を高精細かつこれまでの数倍以上の効率で計測することを目標とし、新たに開発したハイブリッドドローン(写真1)を使用することで、グリーンレーザースキャナを搭載した状態で2時間以上の飛行を可能にし、実海域での地形計測を実施しました。なお、本実証で用いたハイブリッドドローンは、ガソリンを燃料とした発電機によってバッテリーに給電するレンジエクステンダーを採用することで、長時間のフライトが可能なものであり、バッテリーシステムもしくは発電機の片方が万が一故障した際にも飛行を継続できる冗長性も有しています。

【成果の内容】
実証試験は沖縄県竹富町西表島北部の海域を対象に3月1日に実施しました。対象域には、グローブ林、砂浜、海草帯、サンゴ礁が含まれております。約1時間の計測を6回実施し、計測に要した時間は合計6時間21分です。燃料消費量から想定される本システムにおける1回の最大飛行可能時間は2時間以上となります。結果として、対象域中央部においては全長約2.6km、幅1kmの範囲を計測し、東西両端部においては、それぞれ全長約1km、幅約550mと幅約350mの範囲を計測しました(図1)。計測後、PPK-GNSSとIMUによる最適軌跡解析を行うことで、スキャナの位置と姿勢を高精度に処理しており、高さ精度±2cm以内の高精度な点群データが得られました。
サイドラップ率が不十分な箇所があったものの、計測されている範囲では非常に高密度で地形が計測されています。水面も含めた全ての計測点の平均間隔は約12cmであり、陸上から浅海域にかけての連続的な地形(図2)やサンゴ礁の複雑な地形(図3、図4)なども詳細に把握が可能です。なお、今回の計測によって得られた最大水深は約20mです。

【成果の意義】
これまでの海底地形計測は船舶での音響測深が主流であり、海象条件によっては実施が難しく、特に砕波帯での海底地形計測は危険で困難なものでした。一方で、砕波帯は波浪エネルギーが大きく減衰するとともに、そのエネルギーによって地形が大きく変化する場所であり、その地形情報は沿岸域防災や海岸管理の上で非常に重要なものです。ハイブリッドドローンに搭載されたグリーンレーザースキャナによって、沿岸域の詳細な地形が明らかになれば、より精緻な波浪予測や地形変化予測に寄与し、沿岸域の防災計画や適切な港湾開発の策定が可能となると考えられます。また、島国である我が国固有の領土・領海を定期的に調査・管理する技術としての利用も考えられます。

【今後について】
今回、詳細な海底地形が効率的に得られることが実証されたことで、幅広い科学分野や産業における利活用が期待できます。これまで海象条件やバッテリーの時間的限界によって計測ができなかった場所の海底地形が得られるようになったこと、長時間の飛行によって沿岸域における種々の観測手法にも応用される可能性があることは、沿岸・海洋分野における様々な課題のブレイクスルーになりうるものです。一方で、対象とする海域の透明度や海底性状に合わせた最適な地形計測条件については、今後さらに検討を重ねる必要があると考えています。また、長時間の計測に伴ってこれまで以上に大量の点群データが得られることから、それらを効率的に処理する手法についても検討が必要です。今後、港空研、アミューズワンセルフの連携によって、海底地形の計測技術とその利活用方法のさらなる進展を進めていきます。

【技術協力】
小川精機株式会社 https://www.os-engines.co.jp/index_j.htm

【データ処理協力】
有限会社アペオ技研 http://www.apeo.jp/

【関連資料】

出典:https://www.pari.go.jp/files/items/17610/File/Press_highreso.pdf

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