(レーザー関連)ジルコニアセラミックスは結晶構造の変化で壊れにくくなる

~破壊過程のリアルタイム観察で高靭化モデルを実証~

 ジルコニアセラミックス(ZrO)は高い強度と粘り強さ(靭性)を併せ持つ材料として知られています。融点が高く耐熱性にも優れるので、歯科材料や医療器具、宝飾品や刃物などの日用品まで幅広く使われています。そして、ジルコニアセラミックスの靭性が高く壊れにくい理由は、外から力が加わった時に起きる結晶構造の変化にあると考えられています。
 しかし、これまでの研究では、ジルコニアセラミックスが壊れていくときの結晶構造を直接観察することはできず、破壊の前後の状態の比較から、壊れるときにどのような変化が起きるのかを推測していました。特に、衝撃のような瞬間的に大きな力が加わってジルコニアセラミックスが壊れる際に、どのような時間スケールで結晶構造変化が起きているのかは明らかになっていませんでした。
本研究では、強いレーザー光をジルコニアセラミックスに照射して衝撃を与え、破壊が進展していく際の結晶構造の変化をリアルタイムで観察することに初めて成功しました。その結果、結晶構造の変化が破壊の瞬間に起きることを実証しました。具体的には、衝撃が加わってから壊れるまでの結晶構造を、X 線を用いてナノ秒の時間スケールで時間分解観察することで、破壊が起きるところで結晶構造が変化している様子を実際に撮影することに成功しました。材料の破壊時の動きについてより深く理解することは、より良い材料の開発に役立つことが期待されます。今後も実験、観察から材料の物性を解明していくことを目指します。

研究の背景
 ジルコニアセラミックス(ZrO)は高い強度と高い靭性を併せ持つセラミックスとしてよく知られています。融点が高く耐熱性に優れ、さまざまな環境に耐えうる耐食性を持つため、医療器具、装置部品、人工歯、また宝飾品や刃物などの日用品まで幅広い用途で使われています。そのようなジルコニアセラミックスはなぜ高い靭性を持ち、壊れにくいのか。その要因は、ジルコニアセラミックスに外から力が加わった時に起きる結晶構造の変化にあると考えられています。一般的なジルコニアセラミックスは、イットリア(Y₂O₃)などの酸化物を微量に添加することにより、本来高温下で示す結晶構造(正方晶相)を常温下で安定化して作られます。材料試験後の破壊したジルコニアセラミックスの結晶構造が部分的に正方晶相ではなく本来常温常圧で安定な単斜晶相になっていることから、この結晶構造変化が高靭性に寄与していると考えられています。
 しかし、実際に力が加わり、破壊が進展していく際の結晶構造をリアルタイムで観察した実験はこれまでになく、特に衝撃のように瞬間的に大きな力が加わってジルコニアセラミックスが壊れる際に、どのような時間スケールで結晶構造変化が起き、物性に影響しているのかは明らかになっていませんでした。

研究内容と成果
 強い衝撃が加わるとモノは壊れます。衝撃によってジルコニアセラミックスが壊れる状態を作り、その際の結晶構造をX線でコマ撮り撮影することで、どのようなタイミングで結晶構造が変わるのかが分かります。そこで、本研究グループでは高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光実験施設「PF-AR」の「衝撃下その場X線回折測定システム」を用いて、衝撃波がジルコニアセラミックス内部を伝わり、破壊が起きていく過程を詳細に観察しました。この手法では、高強度レーザーを試料に照射することで衝撃波を発生させ、衝撃前から衝撃をまさに受けている瞬間、さらにはその後に衝撃から解放されるまでの結晶構造変化を放射光施設の強いX線により撮影します(図1)。試料には、縦横5ミリメートル、厚さ50マイクロメートルのジルコニアセラミックスを使いました。図2は、X 線回折スペクトルの衝撃による時間変化を表しています。X線回折スペクトルは結晶構造を反映しています。衝撃が加わって7.6ナノ秒(1ナノ秒は1億分の1秒)までは、衝撃によって結晶の体積が収縮するという変化だけが見られ、結晶構造は大きくは変わりませんでした。しかし、12.5ナノ秒以降には図中▼で示したところに新たにスペクトルの山が見えるようになりました。この山は単斜晶相の結晶構造に由来するもので、結晶構造が部分的に正方晶相から単斜晶相に変化したことを表しています。衝撃波の速度プロファイルを別の測定で求めた結果、衝撃波が約5ナノ秒という短いパルス的であること(つまり衝撃波の先頭から5ナノ秒うしろには解放波が来る)、衝撃波は約8ナノ秒で試料裏面に到達し、解放波として反射し再び試料内部を伝わることが分かりました。解放波が交差する点では引張が強く働き破壊が起きます。X線回折測定から、結晶構造変化は解放波が交差するタイミング以降に起きることが分かり、ジルコニアセラミックスが衝撃を受け、破壊されていくときにナノ秒の時間スケールで結晶構造変化が起きる様子を直接観察することに成功しました(図3)。

今後の展開
 本研究では、これまで考えられてきたジルコニアセラミックスの高靱化機構モデルが正しいことを実証することに成功しました。ジルコニアセラミックスのように結晶構造というミクロなスケールでの物性が、材料全体の特性に影響すると考えられる例は多くあり、本研究の様に結晶構造が変化していく過程を詳細に観察することは物性理解のために非常に重要です。本研究チームでは、より安全な材料の開発を可能にするため、より深い物性理解を目指した研究を今後も進めていきます。

出典:
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2021-file/release210517.pdf

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