(レーザー関連)岡山大学/新炭素材料 Q カーボンでエネルギー・環境問題に挑戦

令和4年5月27日
岡山大学

◆発表のポイント

  • 身近にある炭素元素でエネルギーや環境問題を解決する材料を開発する研究を行っています。
  • 世界に先駆けて新材料 Q カーボンの再現に成功し、作製には原料炭素の熱的性質と照射レーザーの強さを適切に調整することが重要であることを示しました。
  • Q カーボンの作製方法を確立する研究や Q カーボンを用いた省エネやエネルギーに関する研究に取り組んでいきます。

岡山大学異分野基礎科学研究所の村岡祐治准教授らの研究グループでは、省資源、省エネ、環境保全などの課題を解決するために、ありふれた元素からできる材料の開発研究を行っています。
これまでに世界に先駆けて、作製が非常に難しい新しい炭素材料 Q カーボンの作製を再現することに成功しました。Q カーボンは 2015 年に報告された新しい炭素同素体です。室温強磁性、わずかなエネルギーでの発光、ダイヤモンドを凌ぐ硬度、ホウ素添加による超伝導などの特性を示します。これらの特性は省エネやエネルギー問題を解決するうえで有用であるために、世界中で Qカーボンを再現するための研究が繰り広げられています。しかし、Q カーボンはレーザーを使った極短時間のプロセスにより生成されるためその作製が難しく、これまで発見者グループ以外に Qカーボンの作製例はありませんでした。村岡准教授らの研究グループはナノ秒*1レーザーを使用した作製プロセスにおいて、冷却度に着目して実験を行いました。その結果、溶融炭素の急冷度を厳密に制御することにより Q カーボンを作製することに成功しました。また、Q カーボンの作製には、原料炭素の熱的性質と照射レーザーの強さを適切に調整することが重要であることを明らかにしました。
これまでの研究により Q カーボンの作製方法を確立するための指針を示すことができました。今後は、Q カーボンの作製方法を確立する研究や Q カーボンを用いた省エネやエネルギーに関する研究に取り組んで行きます。

■発表内容
<導入>

省資源、省エネ、環境保全などの課題を解決する材料が求められています。そのような材料をありふれた元素で実現することは物質科学の重要な課題です。Q カーボンは 2015 年に発見された非晶質の炭素同素体です。室温での強磁性的振舞い、わずかなエネルギーでの発光、ダイヤモンドを凌ぐ硬度、優れた耐摩耗性、レーザー照射による常温常圧でのダイヤモンド変換、ホウ素添加による超伝導などの特性を示すため、Q カーボンは省エネやエネルギー問題を解決するための有力材料になると期待されています。身近な先端材料になりうる Q カーボンですが、まだ使用例はありません。現在は新材料としての可能性の高さから、Q カーボンの作製を再現するための研究が世界的に繰り広げられています。
村岡准教授らのグループはこれまでダイヤモンド超伝導膜の作製に関する研究を行ってきました。同じ炭素系でありダイヤモンドを凌ぐ特性を示す Q カーボンの出現に衝撃を受け、この物質の特性をもっと知りたいと思い Q カーボンの研究を始めました。

<背景>
Q カーボンの研究を行うために、この物質の作製を再現する必要があります。しかし、その作製は容易ではなく、これまでに Q カーボンの研究は発見者グループに限られていました。Q カーボンの研究推進のためには、Q カーボン作製の再現はもちろん、作製方法を明らかにすることが望まれていました。
Q カーボンはレーザーを使った極短時間のプロセスにより生成されます。原料にダイヤモンドライクカーボン(DLC)*2と呼ばれる炭素膜を用い、この原料膜にナノ秒レーザーを照射します。レーザー照射によって溶けた炭素膜が超過冷却*3状態となり、その後超高速急冷されると Q カーボンが得られます。レーザー照射によって DLC から Q カーボンができるまでの時間は数百ナノ秒といわれています。Q カーボンが再現できないのは極短時間の中で熱制御を行うことが難しいからです。Q カーボンの作製を再現するには、溶けた炭素膜の過冷却度と急冷度を実験パラメータによって適切に調節することが重要となります。

<研究内容、業績>
村岡准教授らの研究グループは、溶けた炭素膜の過冷却度と急冷度が照射するレーザーの強さ(レーザー密度)と DLC 膜の熱的特性に強く依存することに着目し、これらを調整することで Q カーボンを作製できると考えました。実験を行った結果、作製した試料において Q カーボンの特徴であるフィラメント形状(図 1)、および、室温で強磁性的振る舞いを観測し(図 2)、Q カーボンの再現に成功したことが分かりました。また、Q カーボンができる組み合わせは複数あり、Q カーボンの作製にはレーザーのエネルギー密度と DLC の熱的性質を適切に調節することが重要であることを明らかにしました。
現在進めている研究は、ホウ素添加 Q カーボン高温超伝導体の開発です。ホウ素添加 Q カーボン超伝導体の超伝導転移温度はこれまでの炭素系や非結晶物質よりもはるかに高く、ホウ素添加量を適切に調整できれば、転移温度は高温銅酸化物超伝導体と同じくらい高くなる可能性を秘めています。村岡准教授らの研究グループでは開発した作製法を使用してホウ素添加 Q カーボンを作製し、超伝導の兆候を観測しています。ホウ素添加量を調整することで、ホウ素添加 Q カーボン高温超伝導の実現に向けた研究を加速できる状況にあります。

<展望>
軽くてありふれた炭素からなり、短時間に作れる Q カーボンは、エネルギー・省エネや環境問題を解決するための有力な先端材料になると見込まれます。これまでの研究により Q カーボンを作製するための指針を得ることができました。今後は作製方法を確立するための研究や Q カーボン高温超伝導体の実現に向けた研究を行っていきます。また、Q カーボンの示す強磁性、わずかなエネルギーでの発光、超伝導などの特性に関する研究や、それらの特性をエネルギーや環境分野に応用するための研究を進めていきます。

<略歴>
1968 年生まれ。東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。博士(理学)。専門分野は固体化学、物質科学。日本学術振興会特別研究員(DC、PD 東北大学金属材料研究所)、フランス政府給費留学生(フランス・ICMCB)、COE 研究員(大阪大学産業科学研究所)、東京大学物性研究所助手、岡山大学大学院自然科学研究科准教授を経て現職。

■補足・用語説明
1) ナノ秒:
単位の名称に着ける接頭語のひとつで、10-9倍(十億分の一)を意味します。1 ナノ秒は十億分の一秒になります。

2) ダイヤモンドライクカーボン(DLC):
主として炭化水素、あるいは、炭素の同素体からなる非晶質の硬質膜。本研究では水素を含まない DLC を用いています。

3) 過冷却:
液体が凝固しないで、凝固点よりも低い温度まで冷却された状態のことです。水であれば、0℃以下でも凍結しない状態を指します。Q カーボンを作製するためには、1000 K の過冷却温度が必要といわれています。

出典:
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r4/press20220527-2.pdf

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