*2017年度ノーベル物理学賞受賞者
レーザー干渉計によって重力波を検出する方法を提案したレイナー・ワイス博士。天体現象から放出される重力波をモデル化し実際に観測された時の解析手法の開発に貢献したキップ・ソーン博士。初期からのLIGO責任者で国際的なプロジェクトにまで発展させることに貢献したバリー・バッシュ博士の3名だ。
(図1)
*LIGO
「アインシュタインの最後の宿題」とも呼ばれた重力波の検出は、天文学者にとっての悲願だった。
その悲願が達成されたのは、2015年9月14日。
ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置されたレーザー干渉計重力波検出装置LIGOによって、約13億年前に、太陽の質量の29倍と36倍の2つのブラックホールが合体する際に放出された重力波を検出することに成功した。
(図2)
*2つのブラックホールがお互いのまわりを回転しながら合体する際に重力波が発生し、さざ波のように宇宙空間を広がっていく様子を示す概念図
この合体によって誕生した新たなブラックホールは、太陽の62倍の質量である為、差分である地球3つ分の質量エネルギーが重力波として放出され、それをLIGOが捉えたのだ。LIGOは全長4km。レーザーを使って垂直方向に光を分け、2つの光が合わさって到達するタイミングのずれを光の干渉の性質を利用して検出する装置だ。この時検出された重力波は、アインシュタインの相対性理論から予測された波形と一致した。アインシュタインが重力波の存在を示唆してから100年。漸く彼の出した最後の宿題の第一問を解くことができたのだ。
現在、レーザー干渉計重力波検出装置は、このLIGO、イタリア・ピサのVirgo、日本・岐阜県飛騨市のKAGRAの3つが設置されている。2015年当時改修作業中だったVirgoはより高性能にバージョンアップし、先日LIGOと共に重力波の検出に成功している。このVirgoの再稼働により、重力波の発生源の位置特定はより正確になり、LIGO単独での観測時よりも1/10の範囲まで絞り込むことが可能なっている。KAGRAは2017年より試験運用を開始。本格稼働は2019年を予定している。
岐阜県飛騨の地下に設置されたKAGRAは、地震による揺れ等を1/100以下に減少させることができ、また、装置内を極低温に保つことで分子レベルの振動を抑えることが可能なように設計されており、より正確な重力波の検出を目指すことになる。
(図3)
*KAGRA
3基全てが稼働すれば、三角測量の要領で重力波の発生源を特定することが可能となり、そのエリアの詳細な観測を行えるようになると期待されている。2016年5月には、全米科学財団とインドの間で協定が結ばれ、2023年に4基目となるレーザー干渉計重力波検出装置が設置される見通しだ。LIGOに関しても、現在は本来の1/3程度の感度で運用されており、改良によって2019年頃には現行の27倍にもなる範囲の宇宙を調査できるようになる予定だ。
今回の偉業は、正に重力波天文学の本格的な幕開けと言われるにふさわしいものだ。受賞者であるレイナー・ワイス博士、キップ・ソーン博士、バリー・バッシュ博士、並びに研究に関わった全ての方々に敬意を表すると共に、今後の天文学の発展に大いに期待を寄せて行きたいところだ。
参考
*日本科学未来館 コミュニケーターブログ
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201710032017NobelPhys.html
*国立天文台 先端技術センター
http://atc.mtk.nao.ac.jp/KAGRA/interferometer.html
*Astro Arts
https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/720_gravitationalwave
*サイエンスポータルhttp://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/10/20171003_02.html
*NATIONAL GEOGRAPHIC
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/061700226/
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/061700226/ph_thumb.jpg?__scale=w:500,h:281&_sh=0b30230c60(図2)
*Sputnik
https://jp.sputniknews.com/images/415/40/4154036.jpg(Top画像)
http://t-munu.phys.s.u-tokyo.ac.jp/ando/121112resceu/kagra/kagra.jpg(図3)
*LIGO
https://www.ligo.caltech.edu/system/media_files/binaries/271/large/Dual_detectors_with_arrow_and_stns_labeled.jpg?1453424757(図1)
「執筆者:株式会社光響 緒方」