インペリアル・カレッジ・ロンドン大学を中心とした研究チームが、数μmに集束した強力なレーザービームを、光に近い速度で運動する電子と衝突させ、電子を減速させることに成功した。ブラックホールやクェーサーの周辺で生じると考えられている量子力学的な現象だが、地上の実験室で確認に成功した。研究成果は、2018年2月7日に『Physical Review X』誌に公開されている。
長波長で低エネルギーの可視光線を物体に照射すると、同じ波長の光が反射または散乱されるだけだが、高エネルギーX線(光子)を物体に照射すると物体中の電子による非弾性散乱を受けてエネルギーの一部を失い、散乱X線の波長が入射X線よりも長くなる。この現象は、コンプトン散乱として知られている。その一方で、可視光線の光子が光に近い速度を持つ電子と衝突すると、電子からエネルギーを受取り、短波長で高エネルギーの光子に変化し、逆に電子はエネルギーを失って減速、究極的には停止する。この逆コンプトン散乱と呼ばれる現象は、「放射の反作用(radiation reaction)」としてブラックホールやクェーサー(ガス状の円盤に囲まれた超巨大ブラックホール)の周辺で生じていると考えられている。
しかしながら研究チームのDan Symes博士は、地上の実験室で、放射の反作用を再現することは、「極めて複雑なセットアップが必要で、実施は非常に困難だった」という。研究チームは、英国政府科学技術設備会議に属するCentral Laser Facilityにおいて、高強度レーザーによって励起されたプラズマ波による粒子加速法である「レーザー航跡場加速(Laser WakeField Acceleration:LWFA)」により、電子を極めて短時間に光に近い速度にまで加速、これと同期して数μmまで集束した強力なレーザービームを1000兆分の1秒という短時間、電子に照射することに成功した。
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