核融合という言葉自体は割合耳にする機会はあるのではないかと思う。なにしろ若き日の藤子不二雄氏のSF漫画の中に(人口太陽として)出てきたり、ガンダムに出てくるMSのエンジンに使われたりしているくらいなのだから(まだ他にもあるかもしれないが)、一般的な認知度はそれなりに高いのだろう。しかし、この2つにはある共通点がある。どちらも未来の話なのだ。そう、核融合技術は人類が未だ未獲得の技術なのである。
図1
世界最大のレーザー核融合施設・米国国立点火施設(NIF)
太陽を始めとして、宇宙で輝く恒星のエネルギーの基となっているもの、それが核融合だ。あらゆる物質は原子で出来ており、その原子は核と電子で構成されている。(原子の性質は核によって決定されている)。この核を無理矢理くっつけて融合させ新たな別の原子核を作り出す、それを核融合という。重水素(D)や三重水素(T)などの比較的軽い元素は核融合反応が起こり易いとされており(この場合は核融合反応によって中性子とヘリウムが生成される)、莫大なエネルギーを放出する。太陽の内部で起こっているのもこの水素による核融合だ。
つまり、核融合技術というのは地球上に人工的に太陽を誕生させようとする試みなのだ。
図2
核融合が起こるように原子核同士を近づける為には、1億度以上の高温が必要となり、尚且つ、必要なエネルギーを取り出す為に核融合の燃料が十分に燃焼する必要だ。その為には一定の密度と一定の閉じ込め期間が必要となってくる。これは物質の第4の形態と呼ばれるプラズマ状態で可能となるわけだが、このプラズマを閉じ込める方法として、現在2つの方法ある。
1つは、慣性核融合という超高密度のプラズマを瞬間的に作り出し慣性の力で閉じ込める方法で、もう1つは強力な磁力で比較的低い密度のプラズマを長時間閉じ込める方法で磁場核融合という。
図3
レーザー核融合は燃料ペレットに多数の強力なレーザーを照射して表面に発生するプラズマの圧力で超高密度に圧縮(爆縮)、中心にできる高温プラズマで核融合反応を点火、燃焼させるという方法で行われる。(下図参照)
図4
現在研究開発中ではあるが、将来的にはレーザー核融合炉内に1秒間に数個の燃料ペレットを打ち込み、レーザー光照射を繰り返すことでその度に核融合反応を引き起こし、そこから得られる熱エネルギーによって発電を可能にするということだ。ちなみに、ここで発電された電力によってレーザー装置等の動力も賄われるという。そして、ここでいう燃料である水素とトリチウムは、地球上の7割を占める海水にふくまれており、更にいうと人間一人が1年間に使う電気を発電するための重水素を作るのに必要な海水量は、ペットボトル(3ℓ)2本分程度で済む、という試算もある。
完成しさえすれば化石燃料に頼らない、夢の循環型エネルギー源を手に入れることになるのだ。
勿論、これから先の課題は山積している。排出されるだろう多量の低レベルの放射性廃棄物(現在の原発の高レベルな物とは違い100年ほどの管理で無害化する)、核融合反応を起こす炉心プラズマ技術や、真空容器、超電導コイル等の開発という技術的課題、そして開発コストの問題も当然ある。
技術が確立したとしても、実用炉の建設期間やその他諸々を考えると本格運用の開始は、早く見積もっても2050年頃にはなりそうだ、というのが文部科学省の見方だそうだ。核融合発電技術の研究が開始されたのが1950年頃なので、まさに100年計画の様相を呈しているが、実現すればこれ程のメリットはないのではなかろうか。
ここで少し方向を変えたレーザー核融合の話を一つ。
アメリカのボーイング社がレーザー核融合エンジンで特許を取得しているのをご存知だろうか。上記の慣性核融合技術を利用したものだ。
図5
*レーザー核融合エンジンの模式図
正直、現在の核融合技術の開発状況から見れば、かなりぶっとんだ内容ではあるが、きちんと米国特許商標庁(USPTO)に承認されている。航空機やロケットのエンジンとして使用される予定のようだが、実用化されれば稼働中にエネルギー供給を必要としない画期的な航空機となる。
蛇足ではあるが、ボーイング社はこの他にも、飛行機の座席でも安眠できる座ったまま使う抱き枕、航空機の翼用3Dプリンターの人工雪(耐降雪実験用で実用的!)、水陸両用乗り物(ドローン?)や、翼とプロペラだけのソーラー飛行機、電磁バリア等、非常にユニークな特許を多々取得している。興味のある方は調べて見るのも面白いかもしれない。
最後に、この特許を基にボーイングが本当に核融合エンジンの開発に乗り出すかどうかは、現在のところ不明である。
参考
*レーザー核融合とは
*日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ
*大阪大学 レーザーエネルギー学研究センター
*ニュースイッチ 日刊工業新聞
*http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/shavetail1/20120725/20120725113901.jpg(図1)
*http://www.ile.osaka-u.ac.jp/jp/laserfusion/images/002.png(図2)
*http://www.ile.osaka-u.ac.jp/jp/laserfusion/images/001.png(図3)
*http://www.ilt.or.jp/forum/Image/ignition.jpg(図4)
*http://c01.newswitch.jp/index/ver2/?url=http%3A%2F%2Fnewswitch.jp%2Fimg%2Fupload%2Fphp5p4iQB_55a430dc89c02.jpg(図5)
「執筆者:株式会社光響 緒方」