現在世界で最も強力なレーザー兵器は、航空機に搭載されている。ボーイングとロッキード、グラマンが共同開発した航空機搭載型レーザー(ABL)がそれだ。開発社名を見るだけで錚々たる面子である。(軍用機に限るなら、ボーイングは戦闘ヘリアパッチ、ロッキードはF-22ラプター、グラマンはF-14トムキャット、辺りが有名どころ。各機映画で見かけることも多い)。
航空機搭載型レーザー兵器、というとスターウォーズの小型戦闘機スターファイター辺りを思い出してしまうが、ABLは弾道ミサイル撃墜に特化した兵器だ。搭載されるのも、所謂戦闘機ではなくボーイング747-400F型貨物機を改造したものになる。
弾道ミサイルを撃墜するのだからそれ相応の威力が必要となるのは当然である。では、その仕組みはどうなっているのか。
過酸化水素(H2O2)と水酸化カリウム(KOH)を塩素ガス(CL2)と反応させ、発生した酸素(O2)にヨウ素ガス(I2)を加えることでヨウ素原子(I)となる。これを超音速ノズルで噴出し急速冷却(-145℃)するとヨウ素原子をレーザー光として取り出すことが出来る。これがCOIL(Chemical Oxygen Iodine Laser:酸化沃素(ヨウ素)化学レーザー)で、波長1.315ミクロンのレーザー光を発生させる
ことが可能だ。
このCOILの出力は3MW。ABLはこれを6基搭載するので、最高で18MWの高エネルギーが発射可能な計算になる。(勿論、条件その他諸々あるが)。
威力の程がピンと来ないかも知れないので少し解説しておくと、日本国内ではレーザーの威力は日本工業規格(JIS)によって以下のように5つにクラス分けされている
◎クラス1
玩具等に使われているもので0.25mW前後。100秒以上の直視も問題無い。
◎クラス2
所謂プレゼンテーション用で21mW未満。0.25秒未満の直視は問題無い。2001年以降、これ以上の出力を持つレーザーポインターの製造販売及び輸入販売は法律で禁止。
◎クラス3A
2001年の法規制以前に販売されていたレーザーポインター等。直視は危険だが瞬きで回避できる場合もある。望遠鏡等で直視すると、目に致命的な損傷を与える。
◎クラス3B
光学ドライブのレーザー等。出力は500mW以下。直視は絶対に避けなければならない。
◎クラス4
レーザーショー等で使用。クラス3B以上。直視だけでなく拡散反射であっても目に悪影響を与え、火傷などの皮膚障害も起こす。温度上昇により照射部分が発火の恐れ有り。
直視を必ず避けなければならないクラス3Bでも500mWに満たない。それが18MW。成る程、兵器に利用されること納得の威力だ。
では、話を元に戻して、気になるのはCOILによる迎撃がどのような手順で行われるのか、だろう。
迎撃任務を遂行するのはボーイング747-400型貨物機を改造し各種機材を搭載した航空機だ(YAL-1A)。
敵国から発射された弾道ミサイルは、まず、早期警戒衛星(DSP)、早期警戒機(AWACS)、コブラボール(米空軍偵察機RC-135)、等の外部のセンサーにより探知され、軍事通信衛星を介してミサイル防衛局(MDA) の弾道ミサイル警戒センターと北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)に送信され、弾道コースを計算、そのデータがYAL-A1に送信。ここから迎撃の開始である。
YAL-A1は360度を6基の赤外線センサーで監視(この時高度12000)し、弾道ミサイルブースト時の噴煙を検出して目標を探知する。探知された目標は、10.6ミクロンの炭酸ガス・レーザーの測距装置ARS(Active Ranging System)で距離を測定し、赤外線センサーの角度情報とあわせて目標の三次元位置を特定。これらの情報を基に、2基の追尾照射レーザー(TILL: 波長1.03μでkw級のYAGレーザー)のうち一基が目標の先端を追尾し、そこから燃料タンクの位置を推定し、もう一基がその燃料タンク周辺を追尾する。そして、ビーコン照射レーザー(BILL: 波長1.06μでkw級YAGレーザー)が航空機と目標の間の大気の歪みを補償光学システムで測定し、迎撃が正確に行えるようサポートする。ここで、ついに、機首のターレットから前述した6基で構成されるCOILビームを照射する。照射時間は3~5秒。僅かそれだけの照射で、弾道ミサイルの燃料タンクは過熱によって破壊され、洩れだした燃料が爆発的に燃焼し、破壊される、ということだ。
ただし、ABLは弾道ミサイルを軌道の中間地点や落下途中に迎撃するシステムではない為、発射地点から数百km以内に航空機が存在する必要がある。
ABLの特長は、弾道ミサイルの直接的な破壊ではなく、上昇段階にあるミサイルが内外からの圧力によって繊細な状態にあることを利用して、COILによる高エネルギーを照射することでミサイル機体の強度を低下させ機能不全を起こさせて無力化させることだ。また、レーザーは当然のことながら光の速度で進む為、既存の迎撃ミサイルと比較しても短時間での迎撃が可能であり、更に、弾道ミサイルの上昇段階で破壊すれば、その破片は敵国領内に落下する事になり、発射への抑止力の一つになるのではないか、とも考えられている。
まさに未来の兵器を思わせるABLだが非常に残念なことに、実用化への道は遠ざかりつつある、ということも書いておかなければならない。
2008年に7機を実戦配備する予定だったが技術的な面で開発が遅れ2010年2月に迎撃実験に成功するも9月、10月には失敗(技術的エラーだが修正は可能と言われていた)。そして、米軍自体の予算が縮小を迫られる中、開発コストの高いABLは、ついに2011年12月、計画凍結が発表され、機体はエアボーン・レーザー試験機(Airborne Laser Test Bed:ALTB)としてモスボール保存されることが決定したのだ。技術開発自体は継続するとのことだが残念な限りである。
ただし、2016年現在、航空機搭載型レーザー兵器としては、現在開発中のF-35他、あらゆる軍用機に搭載可能な小型兵器が開発中(既に10kwクラスのデモンストレーションは行われており、今後は30kwクラスの開発に移行予定)であることも付け加え、続報を待ちたいと思う。
参考
海国防衛ジャーナル
スラド
GIGAZINE
「執筆者:株式会社光響 緒方」