グリーンランド北西部ハイアワサ氷河
地球が宇宙に浮かんだ星である以上、隕石や小惑星が突撃して来ることは避けられない。事実、年間5~10個程度の隕石が地球に激突しているわけだが、これは単に人が住んでいない砂漠や海上に落下して被害が出ていないから話題にならないだけなのだ。
隕石、しかも巨大隕石というより小惑星レベルのものが地球に激突した痕跡/クレーターは世界各地に残されていて、最大規模の物は南アフリカのフレデフォート・クレーターで生成直後のサイズは驚異の直径300km超。メキシコには恐竜絶滅の原因となった隕石の衝突痕が直径160kmの規模で刻み込まれている。最近の研究では地球に原初の生命を齎したのも地球外からの飛来物の可能性が指摘されており、興味が尽きないところだが、そんな隕石の衝突痕が新たに発見されたようだ。
新しいクレーターが発見されたのはグリーンランド北西部のハイアワサ氷河の下だ。直径は約31kmで世界25位にランクインする大きさとなる。決して注目して研究されているわけではなかったこの地点からクレーターが発見されたのは、「オペレーション・アイスブリッジ」による観測の成果だ。
図1
2010年に役目を終えた地球観測衛星ICESatと2018年9月に打ち上げられたICESat-2の間をスムーズに移行する為に行われているこのミッションは、北極と南極の氷床、棚氷、海氷など、地球の極の氷を空から高精度のレーザやレーダースキャンを駆使して観測するというもので、取得されたデータはその全てが公開されており、世界中の研究者が閲覧すること可能となっている。
その「オペレーション・アイスブリッジ」のデータを見たデンマークの研究者が氷の下の岩盤にある巨大な窪みに気が付いたのだという。
デンマーク自然史博物館には、グリーンランドの同地域から採取された巨大な隕石が保管されている。巨大な窪みが衝突クレーターであるかどうかを確かめる為、ドイツのアルフレッドウェゲナー極地海洋研究所に協力を依頼。2,016年5月に、新型の高感度装置を用いた上空からの追加調査が実現、同7月には現地調査を行い、周囲の地表の地質構造を地図にし、氷河から流れ出た堆積物の採取も行った。
新たに加わったデータにより、クレーターは深さ約20m、中央には50~70mほどの盛り上がりがあることが確認された。中心のこの形状は隕石が衝突したクレーターにできる特徴の一つだ。また、採取された堆積物からは衝撃石英も発見されている。これは、隕石衝突の激しい圧力下で形成される特殊な構造を持った石英だ。
図2:衝撃石英の偏光顕微鏡写真
他にも巨大なエネルギーを受けた証拠となる茶色くトースティングされた粒子や、ガラス化した鉱物も見つかった。研究チームは、衝突した隕石は鉄を多く含み、大気圏突入時には直径約1200メートル、重さ110〜120億トンもの巨大さだったと推測している。気になる衝突クレーターの誕生時期、つまり隕石が降ってきた年代の特定には未だ十分な資料が集まっていないとのことだが、レーダーで計測可能な岩石と氷の構造から、おおまかな予想ではあるが、既に氷河が形成された後に衝突し衝撃によって氷に穴が開き、大量の氷が融け出し再凍結した可能性が高いと見られている。これにより、恐らくは更新世の終わる11700年前よりも少し前だったのではないかと推測している。
しかし、現段階では反論もある。発見された衝撃石英は間違いなく衝撃石英だが、それが必ずしも氷河の下から発見されたクレーター由来の物かどうかは現段階では断言することができないというのだ。確定するには今後も採取された資料を一つ一つ詳細に調べていく他は無い。
年代が特定され、研究者たちの推測通りの時期に隕石が衝突していたとすれば、先住民のクロービス文化の消滅、マンモスやマストドン絶滅の原因となったと言われる12,900年前から10,900年前にかけての寒冷期の原因となったと思われる隕石の衝突場所が判明することになるかもしれない。
図3
左)マンモス、右)マストドン
そうなれば人類史に大きな影響を与えることになる。研究者たちは、今後も慎重に調査を進めていく予定だという。
隕石の衝突クレーターを発見したこのミッション「オペレーションアイスブリッジ」は、他にも南極海でバーコード状の不思議な形状の海氷を発見したり、自然にできたきれいな長方形の海氷を発見したり、ラーセンC棚氷の亀裂の計測を行う等、極地の計測を行っている。
左:図4、右:図5
「オペレーションアイスブリッジ」は2020年まで継続の予定だ。
参考
*NATIONAL GEOGLAPHIC
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/111600498/?P=3
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/111600498/02.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=0be0f10cb0 (Top画像)
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/111600498/map.jpg?__scale=w:220,h:501&_sh=085070b704 (図1)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/52/820qtz.jpg (図2)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0a/MammothVsMastodon.jpg/1920px-MammothVsMastodon.jpg (図3)
https://dps68n6fg4q1p.cloudfront.net/wp-content/uploads/2017/11/735x525_ice_like_barcode.jpg (図4)
https://www.cnn.co.jp/storage/2018/10/24/5241a97e5835aba3bdc6282dd418195c/t/768/432/d/001-nasa-ice-shelf.jpg (図5)
執筆者:株式会社光響 緒方