1928年、アレクサンダー・フレミングによるペニシリンの発見。
これは世界中で長く猛威を振るった結核への対抗手段を、人類が初めて手にした瞬間でもあった。*ペニシリンG構造式
抗生物質による化学療法という方法を手に入れたとはいえ、結核は今もって重大な疾病の一つに数えられている。WHOの発表によると、2014年の単独の病原体による死亡原因としては、HIVに次ぐ第2位であり、年間感染者数960万人、死者数150万人となっている。日本は先進国の中では最も罹患率が高く、現在2万人の患者が存在する。
治療法が確立されているにも関わらず撲滅に至らないという点ではマラリア等も同じだが、結核の場合問題になっているのは、抗生物質への薬剤耐性を持つ結核菌が現れたことだ。
日本国内では従来の結核菌であれば治癒率は約80%である。しかし、ニューキノロン系抗生剤への耐性を持つ多剤耐性結核菌の感染では治癒率は50%となり、更に、駐車可能な抗結核薬カナマイシン、アミカシン、カプレオマイシンのうち1種以上に耐性を持つ超多剤耐性結核菌の場合は、30%にまで下がり、既存の薬剤は効果が無く、治療手段が絶たれた状態となってしまう。
この状況を打破すべく、ロシアで新たな治療が行われている。
紫外線による抗菌作用を利用したレーザー治療だ。1964年にノーベル物理学賞を受賞し、医学分野へのレーザーの使用を最初に始めたアレクサンドル・プロホロフ氏が25年前に発案し、開発を始めた。
図1
*アレクサンダー・プロホロフ氏(1916~2002年)
研究者たちによると、重要なのはレーザーの波長を正しく選択することなのだという。彼らは、短波長のレーザーが結核菌に対して有効であることを発見・証明すると、2003年に「マリヤ」と名付けられたレーザー治療機を開発。2005年にはロシア科学アカデミー中央結核研究所で臨床試験を行い、治療後、患者の8%の肺の空洞が完全に閉じることが出来たことが確認された。重篤な症状の場合にはファイバーを使って胚の空洞に入り込み、放射線を分散させる特殊な器具で内部の炎症を局所的に治療することも可能だという。更には、レーザー治療後の患者が結核菌の保菌者ではなくなり、完全に回復しているという報告も成されている。
未だ世界的な普及には程遠く、結核に対するレーザー治療が行われているのはロシア国内のみだが、複数の病院で薬物治療と併用する形で用いられている。
2014年9月、日本発の多剤耐性結核菌に対する治療薬「デルディバ○R」が大塚製薬から発売された。一先ずは安心というところだが、この治療薬も時間の経過と共に新たな耐性菌が出現しないという保証は無い。
結核菌に限らず、抗生物質に耐性を持つ菌は人間が、その薬剤を長く使用すれば体が慣れて効果が薄れていくのと同じような過程を辿って生まれてくる。その為、治療の為に抗生物質を使い続ければ、いずれは耐性菌が現れる。耐性菌が現れれば新しい薬を作る、というサイクルを延々と人間と細菌は繰り返すことになりかねない。
開発者の一人であるゲンナージー・クズミン主任研究員は、様々な波長のレーザーがあることで、理論上はあらゆる病気の治療にレーザーを使用することが出来る。と話している。ロシアでは既に乾癬、気管支系の病、婦人病、子供への気管支鏡検査とでもレーザー療法を使用し、成果を出しているのだという。
WHOは2014年の結核感染者960万人のうち、多剤耐性結核の患者は480万人であると発表している。ショパン、チェーホフ、ヴィヴィアン・リー、中原中也、高杉晋作、沖田総司。多くの過去の有名人も結核で命を落としている。
治療法が無い、という結核の過去の猛威を繰り返さない為に、この研究が大いに役立って欲しいところだ。
参考
*SPUTNIC
https://jp.sputniknews.com/science/201603241837753/
*Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%90%E6%A0%B8
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E5%89%A4%E8%80%90%E6%80%A7%E8%82%BA%E7%B5%90%E6%A0%B8
*https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Aleksandr_Prokhorov.jpg(図1)
「執筆者:株式会社光響 緒方」