光を当てるだけで傷や病気が癒される。アニメや小説や映画で見かけることのあるファンタジーな魔法や空想科学だ。正に夢の技術。それが、現実のものになるとしたらどうだろうか?そんな魔法のような近未来的技術が学術誌「Science Translational Medicine」で発表された。勿論、これは現実なので全ての怪我や病気を治癒してくれるものではない。日本では生涯で罹患する確率男性62%、女性47%にもなるガンの新しい治療法だ。
発表された論文は、血中のガン細胞を皮膚の外側からレーザーを照射することで検出・破壊することができる、というものだ。実験ではガンを罹患した被験者28人中27人のガン細胞を正確に検出し、静脈中を流れるガン細胞をリアルタイムで破壊することにも高確率で成功している。つまり、この技術はガン細胞が新しい腫瘍を作り出す前に破壊することができるのだ。
ガンには「原発性」と「転移性」の2種類があり、発生した箇所にあるのが「原発性」、そこからガン細胞がリンパや血中を移動して他の場所で発生したガンを「転移性」と呼ぶ。この転移はガンによる死亡原因の中で大きな割合を占めている。
この転移性ガン細胞には元となる「循環ガン細胞(CTC)」があり、この細胞が安定する前に破壊してしまえば転移性ガンの発生を抑えることができる。また、体内にどれ位のCTCが存在するのかを把握することができれば、転移性ガンに対してより正確な診断や効果的な治療を行うことが可能だ。
研究チームは、メラノーマ(悪性黒色腫)や皮膚ガンの患者を対象に、皮膚の外側から静脈にレーザーを照射する実験を行った。照射されたレーザーは血中に多量のエネルギーを送り込むことになる。メラノーマのCTCは通常の細胞よりもエネルギーの吸収率が高く急速に膨張し、この際の光音響効果により発生した音響波を超音波トランスデューサーで検出することで、CTCの通過を検出することができる。それだけではなくこのレーザーを使って、通過するCTCを破壊することすら可能だという。CTCはレーザーの熱で蒸気による気泡を発生させ、これが膨張・破裂することでCTCを破壊することができるのだ。
レーザーと超音波トランスデューサーでCTCを検出する実際のテストでは、低出力の検出モードでも、6人の被験者のCTC破壊に成功し、ある被験者に対しては体内にあるガン細胞の96%を破壊することに成功したという。そして、高出力のレーザーを使用すれば、より効果的にCTCを破壊することが可能になるのではないかと研究者たちは期待している。
今現在、CTCを検出する装置は実は既に100種類ほども存在している。しかしその全ては、静脈から採血された血液を体外で分析するというものだ。唯一FDAの認可を受けている既存の装置「CELLSEARCH」ですら、少量の血液サンプルの中からCNCを撮影してくれるだけで、それも診断や診察に広く使われている、とは言い難いのが現状だ。また、ミシガン大学で研究が進められている装置は、手首に装着した機械で血液を採取し、体外でCNCを破壊、血液を再び体内に戻す、というものだが、2~3時間かけて検査・治療できる血液は30~50㎖程度とごく少量。加えて、未だ動物実験の段階のため実用化への道程は長い。
対して、今回発表された新装置は、人体に有効な初の非侵襲性システムであり尚且つ1時間で1ℓ程の血液を検査できる。人間の血液量は体重の8%程度。体重50kgなら4ℓだ。通常体形の成人なら単純計算で4~6時間あれば体内のすべての血液を検査し、更に血液中を移動して新たな腫瘍を作り上げようとするガン細胞の大半を壊滅させることができる、ということになる。そんなに簡単に行く話なのかどうかは未だ分からないが、研究者たちは今後より多くのテストを行い、従来のガン治療と併用することで転移性ガンにどのような作用を及ぼすのかを調べて行く方針だという。
参考
* GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20190613-laser-destroys-cancer-cells/
*Science Translational Medicine
https://stm.sciencemag.org/content/11/496/eaat5857
* IEEE SPECTRUM
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/diagnostics/laser-destroys-cancer-cells-circulating-in-the-blood
https://spectrum.ieee.org/image/MzMxODkyOA.jpeg (Top画像)
* 保健指導リソースガイド
http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2018/007812.php
https://1ginzaclinic.com/CTC/CTC-1.gif (図1)