あんなこといいな、できたらいいな。的ロボットが現実に登場するまであとどれくらいだろうか。青いタヌキ風ネコ型ロボットとまではいかないが、様々なロボットが日常生活に次々と進出し始めている。共働き家庭の強い味方、家をクリーンに保ってくれるロボット掃除機はもはや一家に一台の必須アイテム、掃除もしないし警備もしないし役立たないけどひたすら可愛い癒し系ロボ「LOBOT」は某猫型ロボットの原型かもしれない。そして、ロボット業界の雄・ボストン・ダイナミクスの4足型ロボット「SpotMini」は2018年に東京の建設現場でお仕事デヴューを果たし、今年の9月24日に新名称「Spot」として市場に出ることが発表された。二足歩行ロボ「Atlas」は前転や倒立、ひねりの入ったジャンプまで披露してその存在感を強烈にアピールしている。
と、ここまではロボット界では名の知れた言うなれば超有名人たちだ。しかし世の中にはここまで売れっ子では無いが個性的且つ優秀で面白いロボットは多数存在する。今回は、これまで取り上げたことのある彼らではなく、その他の秀逸ロボに注目してみたい。
CERBERUSは複数の大学がコラボして様々な研究を行っている研究チームだが、そこでスイスのチューリッヒ工科大学が開発しているのは犬型救助ロボ『ANYmal』だ。また4足か、と思った方は『ANYmal』を全くわかっていないと言わざるを得ない。カメラ、レーザーセンサーを搭載した『ANYmal』は、バッテリーで約2時間の活動が可能。重さは30kgと中型犬ほどの大きさながら10kgまでの荷物を運ぶことができるという小型且つパワフルなロボットで、形状としては、さして目新しくは無い4本足タイプだ。人が使い易い形状というのはある程度共通しているものなので、これは仕方のないことだ。
この小型でよくあるタイプのロボットの一体何が注目株なのかというと、『ANYmal』は踊る。何を言っているのかと思うかもしれないが、『ANYmal』は音楽に合わせてダンスを踊ってくれる犬型救助ロボットなのだ。マイクで音源を拾ってビートを割り出し、モーションデータベースから最も音楽に合った振り付けを選んで『ANYmal』的に一番かっこいいダンスを披露してくれるのだとか。救助用だよね、とか被災地で使用する目的だよね、とか言いたいことは色々あるかもしれないが、『ANYmal』の華麗なダンスは以下の動画でご覧頂ける。お尻を振って踊る姿が愛らしいと言えなくもない。
* Robot ANYmal Dancing to Live Music
『ANYmal』のダンスを堪能したところで、彼の更なるイチ押しポイントをご紹介しなければならない。
動画の『ANYmal』は4足タイプのロボットとしては極々普通の足を持ったロボットだ。ガチャンガチャンと音を立てて歩く典型的な歩行スタイルで移動していた。この何の変哲も無かったロボットの足に画期的な改良が加えられ、『ANYmal』は大幅な能力UPと共に生まれ変わったのだ。新生『ANYmal』の姿がコレだ。
*youtubeより
お分り頂けるだろうか。足先に車輪が取り付けられている。
それだけ?!と思われた方は非常に残念だが、やはりこの『ANYmal』を分かっていないと言わざるを得ない。先端に緩衝材が取り付けられた普通のロボ足を車輪に付け替えただけで、移動速度や行動範囲を飛躍的に上昇させることに成功したのだ。
チューリッヒ工科大学の報告書によると、「ハイブリッド歩行運動戦略(hybrid walking-driving locomotion strategies)」と名付けられたこの改造は、車輪によって機敏に動くことが可能になると共に、行動可能な範囲を大きく拡大し、実用化された際により多様な場面に対応できるようになるということだ。新生『ANYmal』が実際に動いている映像は、以下からご覧いただける。
*Rolling in the Deep – Hybrid Locomotion for Wheeled-Legged Robots
また同時に行われたソフト面での改良では、車輪の制御とナビゲーションを別々に処理するように変更。結果、システムにかかる負荷を軽減し、『ANYmal』が活動中に次の動きを予測できるようになり、想定外の状況でもよりスムーズな対応を取ることが可能になったのだという。
動画の後半に『ANYmal』が探索しているのはDARPAの地下施設だ。被災地での活動性能を試すために実施されたこのテストで、『ANYmal』は、搭載されたレーザーセンサーを使用して高速で周囲の状況を地図化し、障害物のある場所や濡れた路面でも問題なく進み、探索する能力があることを証明することに成功したとのことだ。
実はこの『ANYmal』、既に一般社会での活躍する日も近い期待の新人であることもお伝えしなくてはならない。彼らが働くのはネット販売業界の隆盛と共に大きな人手不足に悩まされている運送業界だ。今年1月には米・ラスベガスで開催された「CES2019」で、自動運転EVと配達ロボットとしての『ANYmal』を組み合わせた完全無人配達システムが公開され、大いに注目を浴びた。レーザーセンサー搭載で自力マッピングも夜間の走行も可能、多少の障害物や段差をものともしない『ANYmal』には最適な職場の一つだろう。荷物を受け取るために玄関を開けたら『ANYmal』がいる。そんな状況に何の違和感も抱かなくなる日はそう遠く無いのかもしれない。
最後に、『ANYmal』にはチューリッヒ工科大学のエンジニア達によって謎機能を搭載された個体がある。なんと「おしっこ」をするのだ。読み違いでも見間違いでもなく「おしっこ」だ。犬型ロボットだからってそこまでしなくても、とか、そんなリアリティは求めていないとか色々思うところはあるが、ロボット業界を騒然とさせた世界初の「排泄する犬型ロボット」の動画がコレだ。
ANYmal the dog!!!
@anybotics pic.twitter.com/Zw0NLJYeZO— Roland Siegwart (@rsiegwart) 2019年2月1日
金属製のゴミ箱と思しき物の横でベストポジションを探して足踏みする様子が妙にリアル犬感を漂わせていて生々しい。チューリッヒ工科大学と言えば工学分野の超名門大学だ。そこに所属する研究者達の頭脳が世界レベルであることは疑いようが無い。この世界初のロボット実現の為に使われた技術も相当に高度なはずだが、正直この機能の使い所はどこなのか、高等技術の無駄遣い、救助や配達に来てこんなことされたら笑い死ぬ等、感じることは様々だろうが、これが優秀なエンジニア達にとってのちょっとしたネタ画像だとすれば、技術の発展にはぶっ飛んだ遊び心が不可欠なのかもしれない、と思わずにはいられない。或いは、「必要ならばどんな動きでも」という『ANYmal』の開発理念にそって邁進した結果こうなったのだとするならば「おしっこをする犬型ロボット」を必要としている存在がいる/場面を想定している、ということになる。こうなると凡人では理解が及ばない世界になってしまいそうだが、なんだか楽しそうではあるので『ANYmal』のエンジニア達にはこのままの調子で開発を続けて頂きたいと願う今日この頃だ。
参考
* GIZMODO
https://www.gizmodo.jp/search?q=%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC
* ROCKET NEWS24
https://rocketnews24.com/2019/03/06/1182304/</!–NoAds–>
執筆者:株式会社光響 緒方