(レーザー関連)名古屋大学/3Dプリンタアルミニウムの強度・変形メカニズム解明

力学機能制御の技術開発加速へ

【本研究のポイント】

  • レーザビームを用いる金属 3D プリンタ注 1)技術を用いて製造したアルミニウム合金注 2)の強度と変形メカニズムを、「マイクロピラー圧縮試験注 3)」を用いて解明した。
  • 不均一なミクロ・ナノ組織注 4)の特徴を持つ「溶融注 5)池構造(melt-pool structure)」における個々の領域の機械的性質注 6)を実験的に明らかにした。
  • 本研究にて見出された理解はアルミニウムだけでなく他の金属へも適用できるため、金属 3D プリンタ技術を利用した力学機能制御の技術開発を加速させることが期待される。

【研究概要】
名古屋大学大学院工学研究科のキム ダソム 助教、塚田 祐貴 准教授、高田 尚記教授らの研究グループは、金属 3D プリンタ技術のひとつであるレーザ粉末床溶融結合(L-PBF)法注 7)を用いて製造したアルミニウムの強度と変形のメカニズムを解明しました。

L-PBF 法にて生成する不均一なミクロ・ナノ組織の特徴を有する溶融池構造の異なる領域から、数マイクロメートルの単結晶試験片注 8)(マイクロピラー)を作製しました。それらの圧縮試験の結果、溶融池境界の領域は溶融池内部の領域より低い強度を示すことを実験的に明らかにし、通常の金属では認められない特異な変形挙動を示すことも見出しました。

金属3D プリンタ技術が生み出す不均一なミクロ・ナノ組織の強度と変形の基礎に関する本研究成果は、アルミニウムだけでなく、種々の金属に応用可能です。そのため、本成果の基礎理解は、金属 3D プリンタ技術を利用した機能制御の技術開発を大きく加速させることが期待されます。

本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(A) 『金属 3D プリンタ技術が生み出す革新的耐熱アルミニウム合金の強化原理』 及び 戦略的創造研究推進事業 さきがけ[未来材料] 物質探索空間の拡大による未来材料の創製 『金属 3D プリンタを用いた非平衡組織・準安定相の創出』 の一環として遂行されました。

本研究成果は、2025 年 11 月 27 日付で 3D プリンタ技術に関する国際学術誌「Additive Manufacturing」に掲載されました。

【研究背景と内容】
3D プリンタ(積層造形もしくは付加製造とも呼ばれる)技術の一つである金属粉末を用いたレーザ粉末床溶融結合(Laser Powder Bed Fusion: L-PBF)法は、従来の製造法で不可能な三次元複雑形状の部材を製造できます(図 1a)。その3D プリンタで製造された金属造形体は、金属粉末(図 1b)へのレーザ照射による局所的な溶融とその後の急冷凝固注 9)(1秒間に10万度以上の速さで液体金属が固体になる現象)の繰り返しを通じて造られます。この製造過程は、「溶融池構造(melt-pool structure)」と呼ばれる特徴的なミクロ組織の形態を生み出します(図 1c)。金属3Dプリンタで製造された溶融池構造を有するアルミニウム(Al)は(図 1d)、従来の製法による材料と比べて優れた性能を示すだけでなく、従来の常識とは異なる物性を生み出すことを明らかにしてきました。

金属3D プリンタにより生成する溶融池構造は不均一なミクロ・ナノ組織を有し、溶融池の内部とその境界で特徴は異なり、性質も異なると予測されます。本研究では、マイクロピラー圧縮試験を用いて、溶融池構造における特定の領域の強度と変形メカニズムに迫りました。「マイクロピラー圧縮試験(図2参照)」は、集束イオンビーム(Focus Ion Beam: FIB)加工注 10)により観察試料の特定箇所から大きさ数マイクロメートルの試験片(マイクロピラー)を作製し、ナノインデンテーション装置注 11)を応用した圧縮試験により機械的性質を調べる手法です。この手法は比較的簡便に単結晶の圧縮試験が可能であるため、材料の機械的性質の基礎研究に有効です。


本研究では、金属3D プリンタ技術の一つである L-PBF プロセスで製造した Al-Fe 合金造形体に生成する溶融池構造(図3左)に着目し、「数十ナノメートルの大きさを持つ Alと Fe の化合物(Al6Fe 相)を多量に含む溶融池内部(MPI)」と「比較的大きな Al6Fe 相を含む溶融池境界(MPB)」の領域から作製した単結晶のマイクロピラーの圧縮試験を行いました。その結果、溶融池境界の領域は溶融池内部の領域よりも低い強度を示すことが明らかになりました(図3右)。

また、圧縮試験を行ったマイクロピラーの形状観察から、複数のすべり系注 12)が活動していることが明らかとなりました。このことが、L-PBF プロセスで製造したアルミニウム合金造形体の高い強度をもたらす要因であることが分かりました。

さらに、L-PBF プロセスで製造した Al-Fe 合金造形体から作製したマイクロピラーは高速で変形すれば低い強度、低速で変形すれば高い強度を示し、従来の金属材料と全く逆の傾向を示すことも見出しました。これは、レーザ照射による局所的な溶融とその後の急冷凝固を通じて形成した非平衡状態注 13)のミクロ・ナノ組織によるものと考えています。

【成果の意義】
本研究成果は、金属3D プリンタ技術が複雑な形の金属部材を造ることができるだけでなく、素材にもたらす不均一な溶融池構造を利用して力学機能を制御可能であることを示すものです。金属3D プリンタ技術が生み出す不均一かつ非平衡状態のミクロ・ナノ組織の理解は、アルミニウムだけでなく、種々の金属に応用可能です。そのため、本成果における強度・変形メカニズムに関する基礎的な理解は他の材料へも適用でき、金属 3Dプリンタ技術を利用した機能制御の技術開発を大きく加速させることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 『金属 3D プリンタ技術が生み出す革新的耐熱アルミニウム合金の強化原理』 及び 国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ [未来材料] 物質探索空間の拡大による未来材料の創製 『金属 3D プリンタを用いた非平衡組織・準安定相の創出』 の支援のもとで行われました。

【用語説明】
注 1)金属3Dプリンタ:
コンピュータで制作した3次元データを使い、金属を用いてその形に造形する装置。国際規格 ISO/ASTM 52900 により、3D プリンタ技術は7つのカテゴリに分類され、金属に適用可能な手法は4つである。

注 2)合金:
二種以上の金属を混ぜた材料・物質。金属と非金属元素を混ぜた材料も、金属的性質を持つものは合金と呼ばれる場合が多い。

注 3)圧縮試験:
試験片に圧縮力(荷重)を加え、押しつぶす力と材料の耐圧性を測定する試験法。

注 4)ミクロ・ナノ組織:
一般に「材料組織」と呼ばれることも多く、材料を観察する際に肉眼では見えない微細な構造(結晶の集合体)を指す。結晶の種類、大きさ、分布によって物性は変化する。ミクロ組織は、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡で観察される数十倍から数千倍程度の結晶、欠陥、介在物などを指す。ナノ組織は、さらに微細な領域での、結晶構造などの大きさがナノメートル(nm)単位の構造を指す。

注 5)溶融:
固体の物質が熱を受けて液体になる現象。融解とも呼ぶ。

注 6)機械的性質:
材料が持つ連続体としての力学的な物性の総称(引張強度、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値などを含む)を示す。 特に、材料の種類によって引張・圧縮・せん断などの外力に対する耐久性を示すものを「強度」と呼び、材料の加工のしやすさの尺度にもなる。

注 7)レーザ粉末床溶融結合(L-PBF)法:
英語では、Laser Powder Bed Fusion(L-PBF)と呼ぶ。3次元データに基づいて、一層ずつ金属粉末を積み重ね、これを繰り返して対象物を造形する。具体的には、レーザ(Laser)照射を利用し、数十マイクロメートル厚さの金属粉末層(Powder Bed)を結合(Fusion)させる過程を繰り返し、金属の構造体を製造す
る技術。

注 8)単結晶試験片:
試験片が一つの結晶で構成されている。試験片全体で原子配列が完全に揃っており、結晶軸の方向が変わらないもの。

注 9)凝固:
液体が固体になる現象。

注 10)集束イオンビーム(Focus Ion Beam: FIB)加工:
イオンを電界で加速し、集束したイオンビームを試料に照射し、加工や観察を行う装置。一般に、FIB 加工と呼ばれる。

注 11)ナノインデンテーション装置:
大きさ 10~20 マイクロメートルの超小型圧子を押込んで、材料の荷重-変位曲線を測定する装置。一般に、硬さやヤング率(弾性変形時の強さ)を測定する。

注 12)すべり系:
結晶中に存在する転位が、運動する面をすべり面、原子がずれる方向をすべり方向と呼ぶ。すべり面とすべり方向の組み合わせをすべり系と呼ぶ。

注 13)非平衡状態:
熱力学的に不安定な状態であり、平衡状態に達していない系の状態。

【論文情報】
雑誌名:

Additive Manufacturing

論文タイトル:
Microstructural factors in melt-pool structure for mechanical behavior of Al-Fe alloy manufactured by laser-beam powder bed fusion: Single-crystal micropillar compression test approach

著者:
Dasom Kim (Nagoya Univ.), Akihiro Choshi (Nagoya Univ.), Yuhki Tsukada(Nagoya Univ.), Naoki Takata (Nagoya Univ.)

DOI: 10.1016/j.addma.2025.105035

URL: https://doi.org/10.1016/j.addma.2025.105035

出典:
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20251204_engg.pdf

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