研究成果のポイント
- 高強度超短パルスレーザー注1照射によりシリコン結晶に誘起されるコヒーレントフォノン注2の生成ダイナミックスを理論解析し、新規な物理現象を予見することに成功しました。
- コヒーレントフォノン生成の前駆過程において、プラズモン注 3 と縦光学フォノン注 4 の共鳴相互作用の重要性を見出し、これが過渡的な格子ダイナミックスに顕著な効果を及ぼすことを示しました。
- 励起キャリアのラビ振動注 5 の効果がコヒーレントフォノンの振動パターンに直截に反映することを見出し、既存の実験値と比較して有意な一致を得ることに成功しました。
- コヒーレントフォノン生成の前駆過程は、永らく未開拓な領域でした。今回の理論研究によって豊饒な物理が内在することが立証され、今後の光誘起超高速ダイナミックスの理解に大いに資することが期待されます。
国立大学法人筑波大学数理物質系 日野健一教授、長谷宗明教授、数理物質科学研究科大学院 渡辺陽平(D3)、計算科学研究センター 前島展也講師は、半導体シリコンに高強度超短パルスレーザーを照射した直後におけるプラズモンと縦光学フォノンの共鳴効果がもたらす特異な量子ダイナミックスと当該系におけるラビ振動の効果を理論的に予見することに成功しました。コヒーレントフォノンとは、パルス照射によって駆動される位相の揃った格子振動であり、超高速過程の代表的な現象の一つです。コヒーレントフォノンが生成する直前の 100 フェムト秒注 6程度の時間領域における超高速量子ダイナミックスは、依然として未開拓な課題ですが、近年、内在する量子力学効果の解明が進みつつあります。本研究では、超短光パルスによって高密度励起されたキャリアと縦光学フォノンが結合して、過渡的な複合量子状態であるポーラロニック準粒子注 7 が形成されるというモデルを構築しました。これに基づき、プラズモンとフォノンの両モードがエネルギー的に共鳴して強い相互作用を起こすことによって、コヒーレントフォノンの時間シグナルに特異な振動パターンが発現することを見出しました。さらに、その振幅と位相が、パルス電場の強さに対応するラビ周波数に同期して周期的に振動することを明らかにしました。当該の時間領域におけるコヒーレントフォノン生成の前駆過程は、照射レーザー間の光学的干渉によって遮蔽されるため、依然として未開拓な領域でしたが、今回の理論研究によって豊饒な物理が内在することが立証され、今後の光誘起超高速ダイナミックスの研究の進展に寄与することが期待されます。本研究成果は、「Physical Review B」オンライン版に9月15日付で先行公開されています。
* 本研究成果は、JSPS 科研費 JP23540360、JP15K05121 の助成を受けたものです。
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