足の速さは?体重は?ティラノサウルスを3Dレーザースキャンで精密調査

 恐竜はロマンだ。図鑑やテレビの中の恐竜に憧れ、既に絶滅してしまっていることを残念がった少年少女は今も昔も沢山いるはずだ。恐竜博物館に行きたい、と親にねだったりした経験がある人もいるだろう。立派に成長して大人になってからも、恐竜が大好きだ、という心のままの成人だって少なくはない。そんな大人も子供も憧れる恐竜の第一位は紛れも無く『T-REX』、ティラノサウルスで間違いないだろう。鋭い爪や歯、長い尾、10tを超える巨体、獰猛そのものの姿は、どれをとっても恐竜界のREX、王の名に相応しいと言わざるを得ない。しかし、未だ恐竜の生態は謎に包まれている部分が大半で、恐竜の王ティラノサウルスに関しても、良いこと悪いこと様々な学説が飛び交っている。  そもそも、発見当初の復元図では直立して尾を引きずっている姿だったものが、現在では前傾し、尾を上げた姿、とされているのだからその変遷はなかなかに凄いものがある。発表された学説の中でも、世界中のティラノサウルスファンに衝撃を与えたのは、『ティラノサウルスは鈍足だった』という説だろう。あの姿、あの歯、あの爪で足が遅くて獲物を捕まえられずに死肉を漁っていた、などと聞かされた日には、少年少女の夢はぶち壊しだ。出来れば理想の姿を保って欲しいところだが、現在研究中の課題であり、結論は出ていない。

 体重が重すぎる、骨が砕ける等々言われている鈍足説だが、そもそも恐竜の体重はどのように推量されてきたのかと言いうと、簡単に言えば、直観だそうだ。そもそも、恐竜の化石が完全な状態で発掘さることは極めて稀だ。ティラノサウルスも、ほぼ完全と言えるのは、最初に化石が発見された1916年から現在までの間に、スー、スタン、ジェーン、トリスティンの4体のみだ。一部しか発見されなくても、骨の大きさからある程度の大きさ、体長は推測できる。その体長から更に体重を推測するわけだが、当然のこと、どちらにも誤差が出る。人が直感で推測する以上当然のことだ。

 そこで、直観ではなくでき得る限り正確に導き出す為に、骨格を3Dレーザースキャンする方法が採られ始めている。短時間で正確なデータを得られるレーザースキャンは、閉館後の30分間しか作業が出来ないというような博物館であっても、速やかにデータを取得できる為、非常に有用だという。恐竜の骨格をスキャンした後、取り込んだデータで体型を推定し肉付け作業を行い、そこから出来るだけ正確な体重を割りだすのだという。

 3次元レーザースキャンとコンピューターモデルを用いた調査の結果、1982年に発見されたティラノサウルス・スーは、以前考えられていたよりも3割程も重く、9tを超えていた可能性もあることが分かっている。

 また同時に、スーよりも若い個体の体重は、予測されていたよりも軽いことが判明した。これにより、ティラノサウルスは10~15歳頃が、人間でいうところに成長期に当たり、この時期には1日に5kgという驚異のペースで成長していた可能性まで示唆されている。もしも、短時間でのこれ程の成長が事実だとするならば、より多くの餌を必要とし、その為に活発に活動しなくてはならなかった筈で、恐竜が冷血動物ではなく恒温動物だった可能性もまた高まるという。

 そして、肝心の『ティラノサウルス鈍足説』だが、こちらは未だ研究中であり、真偽のほどは現段階では不明だ。しかし、神奈川大学の宇佐見義之准教授が計算上、16m/秒で走ることが可能だった、との説を唱えている等、希望は持ちたい、というところだろうか。足の速さ以外にも、ティラノサウルスの近縁種の化石から羽毛の痕跡が発見されてことから、ティラノサウルスも羽毛で包まれていた可能性があると言われていたり、研究が進むにつれて様々な説があらわれているが、「子供の頃の夢を壊さないで!」と思うのは、単なる感傷とわがままなのだろう。何にしろ、足が遅かろうが、羽毛でふわふわだろうが、恐竜の本当の姿が明らかにされていくのは楽しみで胸が躍ることに代わりはない。今後の成果に、一喜一憂するのも、子供時代のワクワクの続きなのかもしれない。

参考
*FARO
https://www.faro.com/ja-jp/case-studies/model-structure-restoration-dinosaur-using-3d-laser-scanner/
https://www.faro.com/sitefinity/default-album/1619-kanagawa-2.jpg?sfvrsn=0 (画像1)

*REUTERS
https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-23619720111013

*wikipedia
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1e/Field_fg05.jpg/800px-Field_fg05.jpg (画像2)

*恐竜図鑑
http://www.kyouryu.info/img/dinosaur/tyrannosaurus.jpg (Top画像)